気づかないふりをする

今私は、築50年ほどの古い2階建てのアパートに住んでいます。

少し前までは新築のきれいなアパートに住んでいましたが、家賃を浮かせて少しでも貯蓄に回したかったため、1年半ほど前に引っ越しました。

建物自体は古くても、中はところどころリフォームされていて、ボロボロというわけではありません。

私の部屋は2階で、3部屋あるうちの真ん中です。ちょうど私の部屋の斜め前に、階段が設置されています。

玄関から中に入るとちょうどキッチンがあり、外の通路と並行するようにキッチン台があります。キッチン台の前には大きなすりガラスの窓があり、誰かが通路を通ってくればすぐにわかります。

前述のように私の部屋は3部屋あるうちの真ん中で、階段を登って通路を通る人は、私の部屋か、更に奥にある隣の部屋に用があるということになります。

さて、夜の22時頃などにキッチン台に向かって家事をしていると、窓の外から人の気配がし、すうっと誰かが通っていくのがすりガラス越しに見えることがよくあります。

私の家を通り過ぎていくので、隣の部屋に用がある人ということになりますが、チャイムの音が鳴ったり、ドアを開ける音がすることはありません。

そもそもお隣は高齢のご夫婦と息子さんの3人暮らしなのはずなのですが、通り過ぎていく人影を数えると、多い日では5人以上が隣の部屋の方に向かっているのです。

ちなみに隣の部屋に向かっていく人影はたくさん見ても、戻ってくる人影はあまり見かけません。

ドアに設置されている鍵穴を覗けば、もしかしたら謎は解けるのかもしれません。しかしここに引っ越してから1年半、私はあえてそれをしていません。

気づかないふりさえしていれば、快適に生活を続けられるとわかっているからです。

誰かが通るというだけで、私の生活にはなんの支障もありません。

貯金がある程度できてまた別のところに引っ越す日が来るまで、このまま気づかないふりを続けるつもりです。