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ヒトコワ

上龍さんによるヒトコワにまつわる怖い話の投稿です

夫婦喧嘩を食うものは
短編 2022/03/14 20:37 1,767view
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私は以前、火葬場スタッフとして働いており、普段から故人様の火葬を担当し、ご遺族にお骨上げの手順を説明していました。

数年前、まだ50代の古田さんの火葬を担当しました。死因は肝臓がん。生前は大層な酒豪だったそうです。

火葬は無事終わり、お骨上げの段階に至りました。炉前ホールに戻り、通常通りご遺族に手順を説明します。
喪主の奥様は大声で泣いていました。ご主人に先立たれのがこたえているらしく、生前はとても仲の良い夫婦だったのだろうなとしんみりします。

私がお貸しした鉄箸で白い欠片を摘まみ、あらかた壺に納め終えた奥様がおそるおそるおっしゃいました。

「あのゥ、大変申し上げにくいんですが……こっちにも少し分けてもらえませんか」

おもむろにさしだされたのは市販のタッパー……お惣菜を詰めるプラスチックケースです。
前代未聞の申し出に固まったものの、ご遺族の頼みを断れません。自作の骨壺にお骨を入れてほしい、と述べる人はたまにいるのです。私は努めて平静を装い承諾しました。

「ありがとうございます」

ああ、この人はうちに帰って旦那さんの骨を食べるのかもしれないとちらりと思いました。
故人への未練がそうさせるのか、骨を摘まんで食べる人も珍しくありません。

後日、街でばったり奥様と会いました。火葬場とは打って変わって生き生きしており、十歳ほど若返った気さえします。オフだったのも手伝い、好奇心を押さえきれず聞きました。

「ひょっとして……うちに持って帰られたあの骨、食べたんですか」
「ええ、小太郎が」
「誰です?」
「私が飼ってる犬です」

生前の古田さんはDV亭主で、毎日死んでくれと祈っていたのだと古田さんは告白しました。

「あんなクズ、犬に食われてしまうのがお似合いです」

奥様は笑っていました。

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関連タグ: #DV#声#火葬場#犬#酒
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