証拠はない。
投稿者:りう (54)
夜、遅くまで外回りしていた時、細い山道で営業車をガードレールに当ててしまった。ガードレールは何ともなっていなかったが、車のリアゲートが少し凹んだ。付近に民家や人影はなく、防犯カメラなどもない。
めんどくさい。
リアゲートに薄っすら付着した白い塗料を拭き取った後、
知らん振りして会社に戻り、そのまま帰った。
朝、出社すると騒ぎになっていた。その営業車は営業マンが共有していて、最後に乗ったのは私だ。当然、上司から責められたが、私はシラを切った。
「全く心当たりがない。私が乗る前から凹んでいたのではないか。それか、私が帰ってきた後、誰かが乗ったか。」
証拠はない。バレるはずはなかった。だが、状況からすると私しかありえない。
「もしかしたら、駐車して車から離れていた時、誰かに当て逃げされたのではないか」
これで決着しかけた時、後輩が言った。
「すみません。多分、私です。おとつい乗った時、ガードレールに当たった気がします。すみません。」
まじか、やった!何とか逃れられた。後輩に悪いとは思ったが、本人がそう言うなら、と割り切って安堵した。
後輩は、しばらくペナルティで運転を制限された。
修理費は保険で賄えたようだった。
しばらくして後輩が近寄ってきて言った。
「あの日、見てましたよ。今月営業成績キビシイんすよ」
「10万でいいっす。よろしくです」
やられた。すぐに上司に申告しに行った。
後輩から、いわれなき恐喝を受けていると。
後輩はクビになった。
証拠はないんだよ、後輩くん。
実は本当のことを知ってる人の方が多かったりして。