必ず止まる時計
投稿者:繭 (42)
短編
2022/02/08
00:02
1,012view
私の父は二十回目の結婚記念日に母からプレゼントされた腕時計をそれは大事にしていました。
その日も職場に腕時計を巻いて出かけたのですが、仕事前には規則で必ず外さなければならず、名残惜しい思いでロッカーにしまいました。
退勤時、更衣室に戻って腕時計を出した所10時22分で止まっていました。まだ買って間もないのに変だなと思いましたが、電池を取り換えるとまたすぐ動き出しました。
その後も時計の故障は頻発しました。気持ち悪いのは時計が止まる時刻が毎回必ず同じ、10時22分であることです。
さすがにこうも故障が頻繁では使い物にならないと悩み始めた矢先、母が突然の事故で命を落としました。運転中に後続車に追突され、海に転落したのです。
長時間水にさらされた母の死体はふやけきっており、行政解剖を行うことになりました。
監察医の父は母の解剖医に立候補しました。大事な妻の身体を他の誰にも触らせたくないと思ったのです。父が特定した死亡推定時刻は午前10時頃……その日ロッカーから出した腕時計もまた、10時22分で止まっていました。
あれは未来の母が、最愛の夫の手間を省こうと自分が死んだ時刻を告げていたのでしょうか?
母の葬式後、父は腕時計の電池を換えていません。
前のページ
1/1
この話は怖かったですか?
怖いに投票する 13票
※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。