お冷の数は間違えないで
投稿者:繭 (42)
数年前、ファミレスでウェイトレスのバイトしていた時の事です。
当時私が働くファミレスに週2・3の頻度で通ってくる学生風のカップルがいました。二人とも態度が悪く、うっかり注文を間違えようものなら店中に響く声でヒステリックにどやされます。一度など上司が土下座を要求されたことさえありました。
「いらっしゃいませ……あっ」
その日、来店したカップルに気付いたのは私が最初でした。内心嫌だなあと思いましたが、お客様には対応しなければいけません。素早くコップに二杯水を汲み、トレイにのせて持っていきました。
「お待たせいたしました、ご注文が決まりましたらお呼びください」
丁寧に一礼して二人の前にコップを置きます。その時、すぐ耳元で男の人の声がしました。
「お冷の数は間違えないで」
「ッ!?」
びっくりして固まりました。振り返っても誰もいません。カップルは怪訝そうにしています。
「なんなの?うざいからさっさと消えてくれる?」
「は、はい……申し訳ございません」
恐縮しきってバックヤードに引っ込んだものの、どうにも気になってチラチラ観察していると、思いがけない事が起きました。
互いに虚ろな目をしたカップルが、テーブルにおかれたタバスコの瓶をとり、中身をコップにぶちまけたのです。
さらにはそれを一気飲みし……後は想像にお任せします。この一件でこりたのか、彼等はぱったり店に来なくなりました。
後で思い出しましたが、あの時耳元で聞こえた声は、カップルに土下座を強制され店を辞めた上司とそっくりでした。
その後の上司の消息は知りませんが……二人に取り憑いて来店したのが、せめて生霊であってほしいと祈ります。
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