電車の向かいのシートにバケモノに憑かれた女がいた
投稿者:だれパンダ (31)
私が高校生の頃の話です。
当時私は電車で三駅先の高校に通学していました。最初の頃は大変でしたが、慣れてくると人間観察をする余裕もでてきます。
毎日同じ車両に乗り合わせる顔ぶれも決まってきて、心の中で勝手にあだ名を付けて遊んでいました。
その人と出会ったのは高校2年の春先、下校中の電車の中です。
部活を終えて車両に乗り込んだ私は、シートに腰かけました。座席は大体埋まっています。
席を確保した安心感からほっと一息吐いて顔を上げると、通路を隔てて正面に座る、中年女性が目に飛び込んできました。
とても上品で感じのよいご婦人です。
他にすることもないのでなんとなくその女性を観察しているうちに、奇妙な事に気付きました。
その女性はシートの真ん中に腰かけていたのですが、何故か両側に誰も座っていません。まるで避けられているようです。
両側のシートが特に汚れている形跡もありません。女性の斜め右には吊り革を掴んで立っている会社員もいます。
何故誰も女性の隣に座らないのか疑問を抱きました。
見るからに危なさそうな人や、臭い匂いがしているなら敬遠されるのもわかりますが、女性は非の打ちどころない身なりで正反対のタイプに見えました。
時々電車で不自然に空いたシートを目にしますよね。
アレは幽霊が座っているからだと聞いた事があります。死者が既に座っているから、生者は自然と避けて通るのです。
それを思い出してぞっとしました。
気にし過ぎだと言い聞かせて平静を装いますが、何故か見知らぬ女性から目が離せません。
私が見落としているだけで、彼女には何か人に遠巻きにされる要因があるのでしょうか。
その時、走行中の電車がトンネルに入りました。
視界が突然暗くなり、トンネル内の灯が車窓に映えて、乗客のシルエットを不気味に映し出します。
私は思わず叫びそうになりました。
トンネルに電車が入って翳った瞬間、対岸のシードに座った女性の背後のガラスに、異様な物が映し出されたからです。
それはバケモノでした。
女性もいれば男性もおり、子供や老人もいます。
それら色んな顔がグチャグチャに溶け合った異形のかたまりが、女性の背後のガラスに一瞬だけ映し出されたのです。
女性はうっすらと上品な微笑みを浮かべており、背中に覆いかぶさるバケモノに気付いた様子はありません。
トンネルを抜けると視界は明るくなり、女性の背後で蠢いていたバケモノも消滅しました。
やがて駅に着き、パニックに陥った私は逃げるように車両から駆けだしました。
あれ以来あの女性とは会っていません。
一体私が見たバケモノの正体はなんだったのでしょうか。彼女は何に取り憑かれていたのでしょうか。
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