「おめどご嫁にはむげ入れね」
投稿者:空穂 (6)
「嫁来る約束だったんべえ
おらが嫁さ来でけだぞぉお」
ユラリ、ユラリ
影が、ゆっくりと揺れながら、少しずつ、確かに大きくなっていく。
ズル、ズル、ズル
部屋の前を行ったり来たりしているのだろうか。花嫁衣装が引き摺られる音が不気味に響く。
Kくんは泣きそうになりながら同じ言葉を繰り返した。
「おめどご嫁にはむげ入れね!おめどご嫁にはむげ入れねえ!」
ユラリ、ユラリ、ユラリ
ズル、ズル、ズル
影は、もう障子いっぱいに張り付くように大きくなり、しわがれた声はいつのまにか部屋のなかで響き渡っていた。
「なすてだ
約束だべ
嫁さ来でけだぞ
入れろ 入れろ 入れろ!」
「おめどご嫁にはむげ入れね!おめどご嫁にはむげ入れね!おめどご嫁にはむげ入れね!おめどご嫁には……」
恐怖でガタガタと震えながら、Kくんはとにかく教えられた言葉を何度も何度も繰り返し叫んだ。
どれくらいそうしていただろうか。
ふいに、肩をポンと叩かれて、Kくんは飛び上がった。見ると義弟の従兄弟が、心配そうにこちらを見ている。
あ、交代の時間になったんだ。
そう悟ったKくんは、フラフラになりながら従兄弟に頭を下げて、部屋から逃げるように飛び出した。
居間に戻ると、奥さんや義両親が心配そうに待っていてくれた。
「どうだった?」と、奥さんに聞かれて、Kくんは「どうもなにも……」と、何と答えて良いか分からずに呆然とした。
「あの……あれは一体……み、皆さんあれを……?」
すると、義家族たちは気まずそうに顔を見合わせ、ポツポツとことの次第を説明してくれたそうだ。
何代か前、この家の跡取りが、村の娘を無理矢理手篭めにした。かなり乱暴に、身体に傷をつけてまで関係したのだそうだ。
娘は他に嫁に行けない身体になってしまったため、跡取りは責任をとって嫁にもらうと約束した。にも関わらず、数年も放置したあと、結局全く別の女性と結婚してしまったらしい。
絶望した村の娘は、跡取りを恨みながら自ら命を絶ってしまったそうだ。
以来、村の娘の呪いだろうか。この家の跡取りが外から嫁を貰うと決まると、花嫁衣装を着た怪異が現れるようになった。
怪異は「嫁に来る約束だったろう、私が嫁に来てやったぞ」と喋り、中に入って来ようとする。
本物のお嫁さんや跡取りが対応すると、決まって悪いことが起こるので、いつしかこの家では跡取りの結婚が決まると、親戚中の男衆を集めて跡取りの身代わりになり、怪異を拒む儀式をするようになったのだそうだ。
それが、今夜一晩中行われるのだという。
おもしろかった!!
なんとなく八尺様を思い出しました
Kくんお疲れ様です。
先祖と時代が違うってのを教えてあげなくちゃ逝けないね!
男衆は生贄みたいなものかな
でも見ちゃったらどうなるんだろう
次その風習に参加するときは、貴方のほうから、「貴女をひどい目に合わせた人はもうここには居ない」と説得し納得させたみてはいかがでしょうか。
じゃないといつまでもその風習は終わらないし、その女性もうかばれない様な気がします。
本家だけに執着してるようだから
無くしちゃえば?本家。
万が一義弟夫婦に子供が産まれなかったらいい機会。
もう養子縁組だの新しい嫁で再婚だの余計なことをして本家存続はしないように。
田舎のいかにもな話だな。バケモンも大変だ。
何も事情を知らぬ、血縁者でもない親戚をわざわざ呼び付けて参加させる意味は?
頭数は多ければ多いほどいいってこと?
事情を知らない人間を入れると失敗する恐れがあるのにね。
いかにも片田舎にありそうないわくつきの話です。
無念の死を遂げた不憫な娘の怨念は、そう簡単に消えることはないでしょうが、もうかなり昔のこと。未だに誰一人成仏させてあげられないとは情けない。大の大人たちが、事情も知らない部外者まで巻き込み、ただただ怯えおののくだけの体たらく。読みながら怒りすら湧いてくる胸糞話ですが、内容ストーリ展開、実話かどうかは定かではないが、面白く読めました。
方言から見て秋田県の県南地方なのかな。面白かったです。
話に引き込まれ凄く面白かったです。
相手にしてみれば、酷い仕打ちを受けそれでも律儀に嫁に貰ってくれと出てものの、拒絶され続ける事を考えると何とも理不尽で切ない話でした。
もし、失敗した時はどうなるのか?怨みの強さから恐ろしい事になるのは必至ですね。
大丈夫。慣れる。
あちゃー、このセリフ、噛んでしまいそう。
途中までエロ漫画展開かと思ってしまった
悲しいお話だった
滅多に出会えない上質な怪談でした。ありがとうございます。
子孫に罪は無い?拒み続けて傷付け続けて罪は無い?
そんなクズみたいな家系は廃れてしまいなさい。
子孫に罪はない。
「もし自分の親が殺人者だった時、自分が償う」そういう気概を持った奴だけが、彼らを避難できるとは思う。
私は親に罪や借金があった場合相続を拒否すると思う。
逆に自分が被害者だった場合、犯人を死ぬほど恨むが、その子供達に牙を剥くことは無い
怪異とは、これくらいの距離感が心地いい。