くちゃくちゃおばさん

仲間たちが「おおっ」とDくんを見る。
それで、Dくんはみんなに良いところを見せてやろうと意気込んで、くちゃくちゃおばさんに攻撃をすることにした。

Dくんのヤバいところは、根っからの悪ガキというところだ。
Dくんは、友だちのように後ろから大声を出すなんて生ぬるいことはしなかった。なんと、後ろから走っていって、くちゃくちゃおばさんの背中に飛び蹴りをしてやろうと考えたらしい。
普通に考えて許されない行為だが、あろうことか、Dくんは実行してしまった。

ある日、学校から一人で帰っていると、前方にくちゃくちゃおばさんが歩いているのが見えたという。
いつものように薄汚い格好で、ボロボロのベビーカーを押しながらよたよたと歩いている。
Dくんは「いまだ」と思い、全速力で走り出した。
そして、勢いをつけて思いっきりくちゃくちゃおばさんの背中に飛び蹴りをくらわせた。

ドガッ！ガタガタズサー！！

ものすごい音がして、くちゃくちゃおばさんがベビーカーにもつれながら道路に転んだ。

ベビーカーは、ガガガ！と音を立てて数メール先まで飛んでいった。
Dくんはどうだ！と思っておばさんを見たそうだが、おばさんはあれだけ派手に転んだにも関わらず、うめき声ひとつ出さないのだと言う。
Dくんは薄気味悪くなって、少し逃げ腰になった。
その時、おばさんがヨロヨロとしながらベビーカーを起こして自分も立ち上がった。
そして、怪我をしたのか血だらけの顔で、ニターーッと笑いながらDくんのことを覗き込んできたのだと言う。
焦点の合っていない虚な目。目ヤニや垢？のついた汚い肌。ツンと鼻をつく嫌な匂い。ハァハァと僅かに聞こえる呼吸音。
しかも、その後に及んでおばさんはくちゃくちゃと何かを噛んでいる。
「うわっ」と思ったDくんは、おばさんに一言も謝らずに、全速力でその場を逃げ出してしまった。

おばさんから逃げ出したDくんは、「ヤバいやつだったなー」と思いながらも、大して反省もせずに過ごしていた。
仲間には失敗したことは言いたくなかったので、おばさんにはまだ会っていないということにしていた。
そのまま1週間ほど過ぎたころ。

Dくんはまた一人で学校から帰っていた。
途中で、ふと学校に携帯ゲーム機を忘れたことに気がついた。
あー、やだなー、と思ったが、帰ってからゲームができないことの方が困るなと思い、仕方なく取りに帰ることにした。
くるっ、と元来た道を振り返った瞬間、

ぶつかりそうなくらい至近距離に、くちゃくちゃおばさんが立っていた。

思わず心臓が止まるほどビックリして、Dくんはヒュッと息を飲んだ。
おばさんは、前回の怪我がまだ治りきっていないらしく、顔じゅうに瘡蓋ができている。
そして、相変わらずくちゃくちゃ何かを噛みながら、ニタニタ笑いでDくんを見ている。
おばさんが持っているベビーカーは、Dくんに蹴飛ばされて壊れてしまったのか、さらにボロボロになっていた。
Dくんはすぐに逃げ出そうかと思ったが、いや待てよ、と思い直した。
これは前回の失敗を取り戻すチャンスだ。
そこで、Dくんは勇敢にもおばさんを睨み返すと、