神社に佇む移動する銅像
投稿者:心結 (5)
これは、私の地元の神社にまつわるちょっと不思議な噂です。
その神社は市内でも割と大きい神社で、戦没者を祀った神社です。海を見渡すことができる風光明媚な地域にあり、とても厳かな神社なのです。
毎年、8月15日にはお祭りがあり、戦没者の方々の鎮魂を願い、大きな花火があがります。
神社の周りは砂防林という、海から飛んでくる砂から町を守るための松林に囲まれています。
敷地内には数多くの祠や石碑が立ち並んでいるのです。
大人たちは戦没者の方々の想いが詰まっている場所、という認識で子供達には「軽々しく行ってはいけない」という教育をするのですが、子供たちの中では肝試しのスポットとしても有名でした。
それはある噂があったからなのです。
境内の参道から一本小道を入ると、戦没者だけでなく残された家族や近くの小学校にいた子供たちを祀る場所があります。
さらに、小屋に閉じ込められそのまま命を落とした馬の銅像や、乳飲み子を抱えた女性の銅像が建てられているのです。
その女性の銅像はとても悲しい表情をしており、おそらく酸性雨等による影響かと思いますが、目元には涙の跡のような模様まであるのです。
この地域では、この女性の銅像の顔を見ながら移動をすると、どの角度から見てもこちらを向いているように見える、また、どんなに離れても距離感が変わらずまるで後をつけてきているかのようだという噂で盛り上がっていました。
私が小学校の高学年になった夏休み、友達に誘われこの銅像を見に行くことになりました。
親に言えば止められるため、みんな公園に行くと言い神社へ向かったのです。
友達の中には証拠を撮ろうとカメラまで持ってきた子もいました。
もっとも銅像の顔が良く見える場所は、前述した小屋に入ったままの馬の銅像の真ん前。
馬もどこか悲しい表情で小屋かな鼻だけを突きだしていました。
私たちは、この小屋の前から女性の銅像を見上げ、顔をみました。
乳飲み子を抱き、母乳をやりながら悲しそうにでもどこかいとおしそうに赤ん坊を見つめている女性でした。
噂の通り、顔をみた私たちは別な場所へ移動します。
先ほどとは方角が違うのに、確かに女性はこちらを見ているのです。
そして、銅像が見えるはずのない場所へ移動し、銅像がある方向を見て私たちは腰を抜かしました。
ここからはとっくに銅像は木の陰になるはず。
そんなに背の高い銅像ではないにも関わらず、はっきりとこちらを見ている女性の銅像があるのです。
それはまるで、「私たちを見世物にするな」と怒っているかのようにも感じました。
それからというもの、私たちは遊び半分でこの神社に近づくことは二度とありませんでした。
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