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ヒトコワ

fitさんによるヒトコワにまつわる怖い話の投稿です

怖くないのに怖い人
短編 2021/07/31 10:39 3,611view

私は小学校1年生の頃、家庭の事情で実父と離れ、実母の実家で生活をしていた時期がありました。
突然遠方の実母の実家に行くことになり、また、そこで小学校の入学式を迎え、誰も知らない環境での生活に不安になっていました。
しかし幸いにも1つ前の席に座っていた女の子が私によく話しかけてくれて彼女とよく遊ぶようになりました。

学校が終わると私が彼女の家に行くか、彼女が私の家に来るかのどっちかで、時々別の友達も交えながら仲良く遊んでいました。
彼女の家に行くと専業主婦と思われる母親と自営業の父親がおり、時には彼女の両親とゲームなどで一緒に遊んだこともありました。
当時仕事が多忙でほとんど家におらず、一緒に遊んだ記憶もない実父と離れていた自分にとっては、子どもたちと一緒に遊んでくれる彼女の父親がとても羨ましかったものです。

しかし1学期が終わった後、再度実父の元に戻ることになったため、彼女をはじめとする同級生たちに別れを告げることなく急遽転校することになりました。それ以降は時々実母の実家に行くことはあったのですが、かつての友達に会うことはありませんでした。

引っ越してから数年後、長期休暇中に実母の実家に滞在していた時、ふと小学校時代の話をする機会がありました。
私はあの時毎日遊んでいた彼女はいったいどうしているだろうかということを何の気なしに行ったのですが、その話をすると祖母と実母が気まずそうな顔をしました。

聞けば彼女の父親はその地元では有名なヤクザで暴力団の組長をしており、数年前にある事件に関わったとして警察に逮捕されて現在は服役中だということでした。
しかもそれは刃傷沙汰だったということで、数年程度では出所しないとのことでした。
また地域では時折近隣住民とトラブルを起こしていたそうです。

祖母と実母は私があのヤクザの子どもだと分かってはいたそうですが、まだ引っ越してきたばかりで友達もいない私に説明するのは難しいと思って遊ぶことをやめさせなかったということです。
彼女の父親がヤクザと聞いて怖いと思う反面、少なくとも私といるときはとても穏やかで笑顔の絶えない人であり、DVの多かった実父と比較してもいい父親だと思っていました。

今はその友達も父親もどうしているかはわかりませんが、実父がいない中での数少ない楽しい思い出だっただけに今でも複雑な気持ちです。

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