「そのようね、由美子ちゃんは既に亡くなっていたのよ。
長内先生の飛び降りの数時間後に、町外れの川で、彼女の遺体は発見されたわ。
遺書はなかった。
検視の結果、亡くなったのは行方不明になった日のうちで、体内から毒物も出てきたの。
どうやら毒を飲んでの入水ということで、死因は水死と服毒死の複合的なものと判断されたわ。
問題は毒物で、どこで手に入れたかだけど、病院から同じ物が、紛失していたことが分かったのよ」
「えええー」
「由美子ちゃん、最後の方は長内先生にしつこかったからね。
何度も振られて、“この世”で無理なら“あの世”で結婚するとか言って、先生に心中を持ちかけてたって、話もあったし。
どちらかが毒薬を盗んだんだろうけど、由美子ちゃんはその場所を知らないから、いずれにしろ、長内先生は絡んでるわね。
他にも疑問はあるわ、毒物は彼女が自主的に飲んだのか? 先生が飲ませたのか?
自分で川に入ったり、落ちたりしたのか? 先生が落としたのか?
何せ2人とも死んじゃって、遺書もないから分からないのよ。
勿論 病院は責任を取らされたけど、大事(おおごと)にしたくないという、由美子ちゃんのご両親の訴えで、全国ニュースにはならなかった」
「……まさか、由美子ちゃんまで、死ぬとは思わなかったです」
「先に亡くなった由美子ちゃんが、先生を“あの世”に連れて行ったんだろうと、町の人たちは噂したわ」
「それで、長内先生は幽霊になったんですね」
「えぇ、先生が死んで49日が過ぎた頃、患者で混んでる待合室に、唐突に現れたのよ。
狭い町だし、彼が死んだことは皆が知ってるから阿鼻叫喚よ!
ビビりまくる人たちを他所に、彼は生前と同じように早足で歩いてた。
生きてる時と同じように、鉛筆を口に咥えてブツブツ言いながら、これまた唐突に消えたの。
それからも彼の幽霊は、病院内のあちこちに現れた。
毎日、時間や場所を問わずに何度もね。
現れては、歩いて消えるだけなんだけど、周りが全く見えてない感じだから、自分が死んだのが分かってないのね。
私も実際に行って、この目で確かに見たわ。
困った院長がお祓いを頼んだけど、何度やっても効果はなかった。
それどころか、何度目かのお祓いの後、由美子ちゃんまで出るようになったのよ」
「由美子ちゃんもですか! しかも追加で! お祓いの意味ないですね、増えるなんて!」
「そうでしょ、長内先生が出ると、その後ろから必ず由美子ちゃんも現れて『せんせー、せんせー』と呼びかけながら、必死に追いかけるの。
でも気づいてもらえないまま、暫くして2人とも消える。
時間的にはほんの数秒だけど、どちらもハッキリ見えて、幽霊とは思えなかった。
その後病院は移転したから、旧病院は閉鎖されたけど、その後も2人は出てね、窓から見えるのよ。
だから廃墟になっても、野次馬は集まってたわ。
そして勝手に中に入る奴もいて、怪我人が出たことで、取り壊された。
築10年未満の、比較的 新しい病院だったんだけどね。
それ以降は、建物がないからか誰も見てないわ。
以上、長内先生の幽霊話よ」

























※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。