奇々怪々 お知らせ

妖怪・風習・伝奇

バクシマさんによる妖怪・風習・伝奇にまつわる怖い話の投稿です

バズ美(前編)
長編 2026/09/29 02:36 70view

バズ美
※本稿は、寝ても覚めても恥に悶えるような卑しいエセ怪談です。正統な怪談を欲する人の渇きには応えられません、ごめんなさい。
貴方にはもっと相応しい怪談があると思うの。

-バズる-
バズる、それはインターネット上で口コミなどを通じて一躍話題となるさま、あるいは各種メディアや一般消費者の話題を席巻するさまを指す語である
 近年、人々の承認願望の隙間から新たな怪異が生まれた。
その名は「バズ美」 もしその妖怪に取り憑かれたならば、ネット空間に投稿したものは確実にバズる。漏れなくランキング入りする。良いことづくめと言えよう。
バズ美は座敷童子に近い存在かもしれない。
だが、やがてバズ美が役目を終え、いずこかへと去ったならば、波が引くように投稿のイイネ数は激減していく。
とはいえ、これはバズ美に取り憑かれる前の状態に戻っただけだ。バズらなくて無くて元々、あるいは足るを知る、といった心持ちであれば皆が平穏に済む話ではある。
しかし、バズ美を呼び寄せるほどに承認欲求の塊のような者達である。そもそもに我欲に取り憑かれている人間だ。感謝どころか、揃いも揃ってバズ美を恨むのであった。
 バズ美はもとより善良な精神を持った妖怪である。自分を求める者のところへ出向き、願望を叶えさせる。結構なことだ。
 しかし、悲しむべきはバズ美を求める者達の方が善良と程遠いことである。『バズり』をもたらしたはずの相手から、去り際に放たれる悪意の罵詈雑言
「なぜ去るんだ」
「もっとバズらせろ」
「クソbotめが」
寄せては返す波のように繰り返される、声高に強調されるモラルと、掃き溜めのようなインモラル。
ネット世界の人間の業は、バズ美の純粋な心を揉みしだき、疲弊させていった。
そしてバズ美が加護をもたらしてきた恋活サイトがサイバー攻撃により閉鎖されたことをきっかけとして、ついには、バズ美はネット世界から姿を消してしまった。
このバズ美消失事件により、ネット世界では、責任のなすりつけあいや怨嗟の声が溢れかえったとのことである。
 一方その頃

 バズ美はひとり白浜にたたずみ、海をぼんやり眺めていた。ここはバズ美の故郷である東北某所の白浜である。
 真夏の燦々とした太陽にバズ美は照らされている。白いツバ広帽子を深々とかぶり、淡い色のワンピースに身をつつむ姿は、実にエレガンスだ。
 だが、そんな華やかな様相と対照的に、バズ美の心は沈んでいた。
「世の人間どもは、どいつもこいつも自分のことだけなんだな」
ネットで高尚な言葉を書き連ねて息巻いている連中だって、イイネや賛同コメントが欲しいだけだ。人間の卑しい性質なんて、昔から変わらない。
 故郷に戻ってきたと言うのに、バズ美は渇いた声を吐き出した。
 昔に戻りたい。
 幼い座敷童子として人々に果報をもたらし、人の綺麗な面だけを見ていた、あの頃に。 旅館で女将さん達と楽しく過ごしたあの頃に。
 バズ美は、この白浜近くにあった大きな古旅館で何代にもかけて、客や従業員に果報をもたらしてきた。
しかし、バブル期に建てられたリゾートホテルによって客を根こそぎ持ってかれ、あえなくその古旅館は廃業した。
 そのいきさつたるや、まことに不幸な出来事だった。女将がテレビ番組に応募した懸賞で、うっかり金賞ハワイ旅行三週間の旅をもたらしてしまったのが仇となってしまった。
 女将の旅行に同行したバズ美が、ワイキキビーチでパラソルの下、グラスに南国フルーツが刺さった青いドリンクを喫している頃に、くだんのリゾートホテルが建てられたのだ。せめて銅賞の「金・銀・パールをプレゼント」にとどめておくべきだったのかもしれない。
 悲しいかな、日本に帰国したとき既に大勢は決していた。
 頼みの綱であるバズ美にも、この状況を打開できる程の妖力は残っていなかった。
 旅先でフラダンサー達に福を「おひねり」しすぎたのだ。
 この没落ぶりをライバル旅館のリゾートバイト達は指をさして嘲笑した。
 屈辱にまみれた女将は「あいや憎し!」と天に慟哭したかと思えば、土産物のマカデミアナッツを頬張りながら憤死した。
 女将を凄惨な最期を看取った座敷童子は、彼等のようなリゾートバイトという華やかパリピ職務に群がる軽薄の分際に、えげつない呪いがかかるよう強く念じた。そして姿を変え名を変えて各地を放浪する。
 流れ流れて、座敷童はやがてバズ美と名乗る次第となった。
 しかし、この容姿と名前もじきに捨てるであろう。この腐敗した世の中を怪異が渡るには、カメレオンのようにガラリと自分を変えていくほうが都合が良いのだ。
 傷心のバズ美は、あてもなく砂浜を歩く
 とぼとぼ……とぼとぼ……とぼとぼ……
 そろそろ街中に戻ろうか、バズ美がそんなことを考え始めたときだった。
バズ美は、ひとりの老人が釣りをしているのに出くわした。
その老人は一風変わっていた。箒のような白髭をたくわえ、白い衣を纏い、まるで古代中国、殷周(いんしゅう)時代の仙人のような様相であった。
 髭を海風にたなびかせ、どっかり座りながら海に釣り糸を垂らす、その佇まいは自然と完全に調和している。釣り人の理想の様といえよう。バズ美は老人に自然と興味が湧いた。
「釣れますか」 などとバズ美、歩みより……
老人はバズ美をチラリと見ると、首を横に振った。
「釣れやせんよ、儂(わし)は殺生を好まん」

そう言うと老人は釣竿をしゃくり上げた。道糸の先には釣針はなく、ただ茄子のような形をした錘(おもり)が結ばれているだけであった。バズ美は困惑した。
「はて、釣針が見受けられませんが。針もなく、貴方は何が釣れるのを待っているのですか」
バズ美の率直な問いに老人が応える。
「儂は、儂を望む御仁と巡り逢うことを、待っておる」
 バズ美は老人の言葉に心を打たれた。ネットの掃き溜めのなか、卑しい人間と関わることで心が荒み、人間への信頼が揺らいでいたところである。
もしやこの老人こそ、自分が心の底で求めていた高尚な人物なのではないか。
 老人は腰に供えたひょうたんの栓を抜くと、ちびちびとやりだす。
「あ、あのう」
 バズ美は話題のあてもないまま、衝動的に、お楽しみ中の老人に話しかけた。
しかし、そのとき、
『ピピピ ピピピ ピピピ』
甲高い電子音が、けたたましく2人の周囲に鳴り響く。すると老人はやんわりと胸元からスマホを取り出した。
「ふむ、巡り逢えたかものう」
「ほへ?」
素っ頓狂な声を上げたバズ美を、老人は意に介さない。老人は応答ボタンを押し、スマホをそっと自身の脇に置いた。
どうやらスピーカー状態になっているらしく、通話相手の環境音がバズ美にも聞こえる。
 電話の相手がこの老人の待ち望む相手……
思わずバズ美は電話の向こう側の音声に集中する。
『ざざ……ざざ…』
いやに雑音が煩い
『ざざ……僕は……OLが憎いです……ざざ……』
雑音にまぎれて、確かにそう聞こえた。
「ふむ、今回もハズレじゃのう」
「……」
 ……なんだ今のは。
「む、どうしたのじゃ。なんとも言えない顔をしているのう」
「あの、ええと、うん。なんですか今のは」
釣針のくだりの困惑度を「一(いち)」とするなら、今の困惑度は「十(じゅう)」ぐらいだろうか。
「ふむ」
老人はおもむろに立ち上がる。意外と背が高い。いや、そんなことはどうでもいい。そこには有るべきものがない。そう、『足』が無い。宙にプカプカ浮いているのだ。
「実はのう」
老人は口を開く。
「は、はい」
バズ美は理解の追いつかないまま緊張して頷く。
「儂な、幽霊向けの恋活アプリを使っておるのじゃよ」
 老人はモジモジと恥じらいがちな表情で、そう言った。
 そのとき、急に強い海風がバズ美の帽子はあおり、帽子は飛ばされてしまった。
だが眼前の情報過多のせいでバズ美はそれを認知することができない。
帽子は颯爽と退場していった。
 改めて釣針のくだりの困惑度を「一」とするなら、今の困惑度は「X(えっくす)」といえよう。感情の値は不明である。
「それというのものう」
 ……その後の老人の話を要約するとこうである。
 老人は生前の記憶は無く、気づけば幽霊としてこの町を漂っていた。そんなあるとき、駅舎のゴミ箱で朽ちたスマホを偶然に見つけた。
 当然に電源はとっくに切れているはずなのだが、老人が持った途端、どういうわけか徐々に充電がされていく。
 やがて画面がつき、奇妙なロゴが画面が映し出される。ロゴが消えると同時にホーム画面となった。そこにはアプリが一つだけ配置されていた。
「霊♡活」
 老人は早速そのアプリを開いてみた。どうやら真剣に出逢いをしたい霊たちを繋ぐ、霊の恋活応援アプリのようだ。
 ちょうど自分は独りで彷徨う、寂しい盛りである。
いかがわしい雰囲気がするものの、老人はとりあえず新規入会することにした
 まずはプロフィール設定。

「名前」「死後歴」「呪縛地域」「死に様」といった定番どころの質問から、
「祟りたいor無害でいたい」「夢にでたいorでたくない」「日中にでる幽霊には親しみを覚えるor距離を置きたい」などのオリジナリティな二択形式もある。
 また、プレミアム会員になると、運営から評価の高いハイステータスな霊が紹介されるようだが、代償としてプレミアム会員希望者は、まだ生きている自分の家族・親類の情報を運営に提供しなければいけないとのこと。
 しかし、このプレミアム会員への加入条件に関しては、老人には生前の記憶がないからどうしようもない。
 やむなく一般会員となり、そして現在に至る。
 話を聞いていて、バズ美は老人に憐憫の情が湧いてきた。いまさら欲深な人間達に福をもたらす気などさらさら無いが、幽霊相手なら、まぁ良いかもしれない。
 バズ美は妖怪であるがゆえに人間のように全くの悪になりきれないのである
「しかし、のう」
老人は悲しそうにうつむく。
「さっきの電話のように、儂にまわされるのはしょうもない霊達ばかり。儂はこのままずっとひとりぼっちなのかのう」
その老人の言葉を聴いて、バズ美は心中に熱くなるものを感じた。
「………やんよ」
「ん、なんじゃ」老人はバズ美に聞き返す。。
「バズらせてやんよ!!あんたのアカウントをよう!!」
「し、しかし儂はプレミアム会員でもないし」
「関係ないわ……私はバズ美。無料会員のままあなたに良縁をもたらしてあげるわ」
 こうしてバズ美は老人の霊活を成功させるために奮闘することとなった。
 とはいえ、いきなり妖力を使い、福をもたらすような事はしない。
 妖力に頼らずとも、バズ美は、自身の恋愛テクニックにすこぶる自信があった。
 バズ美がまだネット界隈に潜っていたころ、とある出会い系サイトで福をもたらしていた時期があり、その間で恋愛の技法を学んだのだ。
 手始めにバズ美は「霊♡活」のシステムを確認してみる。どうやらユーザーは運営に対して全くの受け身というわけではなく、積極的に他のユーザーに連絡をとることも可能のようだった。
 ただし、一般ユーザーがメッセージを送れるのは、自身のプロフィールに興味を持ち、直にメッセージを送ってくれた相手に限定されていた。つまりはプロフィールの善し悪しが鍵なのである。なるほど、であれば老人のプロフィールを改善することが突破口になりそうだ。
しかし……
「このアプリは駄目ね」
「なんじゃと」
「プレミアム会員になるためにユーザーにゆかりのある生者の情報を売らせるなんて、とても真っ当な運営とは思えないわ。
しかも『生者を取り憑き殺して直接運営に紹介したならエクスタシー会員に招待します』って。
退会しましょう。」
「いや、アンタついさっき『私はバズ美』とかなんとか啖呵をきったばかりじゃろう」
「おだまり!!自分の大切な人を業者に売るような幽霊とマッチングして、あなたは嬉しいの!?」
老人はハッとした表情をする。
「そういうことよ。他の手でパートナーを見つけましょう」
「しかし、どうやったら」
「そんなの、通りすがりの人に声をかけるしかないでしょ。」
「え、いや、それナンパじゃあ」
「なに、それじゃあ幽霊のあなたに自然な出逢いがあると思うのかしら」
「それは」
「あなたは周りに当たり前に年頃の異性がいる学生さんでもないし、自然に会話の弾むお料理教室に通うこともできないのよ」
「ぐぬぬ」
「そうとなれば行くわよ 『ハント』に……」
 運営の倫理観をやり玉にしたバズ美ではあったが、実際のところアプリを使わなかった真の理由は別にあった。
 この一見手軽で便利そうな霊活アプリには落とし穴がある。それはプレミアム会員は多くの「手札」を思うままに集められるということだ。
 老人はプレミアム会員と一対一で向き合っているつもりでも、相手からしたら何十人のうちの一人にすぎない。
 この老人に魅力があるかどうかは関係無い。手札数の差で、始まる前からすでに圧倒的に不利な状況だ。
 勝ち戦の本質とは、開戦のずっとに前に、既にして負けない態勢を構築することであるというのがバズ美の持論である。
 ゆえに、最初から運営にもプレミアム会員にも主導権を握られている、このアプリを利用するという手段は、内心では早々に選択肢から切っていた。
「で、ナンパに行くのは分かったのじゃが」
「『ハント』よ。」
「ああ、分かったよ。で、どこにハントに行くのじゃ。駅前のあたりかのう」
「生者ならそうね。でも、なぜ狩場を駅前とかの繁華街にするのかっていうと、暇な若い女の子がそこに多いからでしょう。
 でもアナタが狙うのは幽霊とかの怪異系女子よね。ということは、当然それに合わせた狩場を選定すべきだわ。そうね。さしあたって……」

1/6
コメント(0)

※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。

怖い話の人気キーワード

奇々怪々に投稿された怖い話の中から、特定のキーワードにまつわる怖い話をご覧いただけます。

気になるキーワードを探してお気に入りの怖い話を見つけてみてください。