命に別状はなかった。
ただ、その日を境に辞めてしまった。
「何があったんですか?」
「本人は、『2時頃からの記憶が無い』とだけ」
店長は続けた。
「その頃から夜勤の人間の間で、2時から3時はバックヤードにいるように、っていう暗黙のルールができた」
僕は、初日の店長の言葉を思い出した。
「必ずバックヤードにいてください」
あれは単なる仕事の指示ではなかった。
「じゃあ、あの声は……」
店長は首を横に振った。
「分からない」
僕は黙っていた。
「だから夜勤の人には、呼び鈴が鳴らない限り売場へ出るなって教えてる」
「…それが、唯一の手段なんだ」
⸻⸻
それから月日が経った。
僕はしばらく、そのコンビニで働いた。
2時から3時はバックヤード。
呼び鈴が鳴ったらレジへ行く。
自動ドアの音がして、普通のお客さんが入ってくる。
3時になればトラックが来る。
そんな毎日を繰り返した。
あの女を、もう一度見ることはなかった。
やがて、僕はそのアルバイトを辞めた。
それから、さらに時間が経った。
もう、あの日のことを思い出すことも少なくなった。
けれど、
今でも一つだけ、
どうしても慣れないことがある。
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