その地方競馬場には、地元の競馬ファンの間で昔から妙な噂がある。
「大雨の日には、夜まで競馬場に残るな」
理由を尋ねても、年配のファンはあまり詳しく話したがらない。
ただ、
「雨の日の最終レースが終わったら、すぐ帰れ」
それだけを言う。
その競馬場では、30年ほど前、大雨の中で行われたレース中に騎手が落馬する事故があった。
馬場は田んぼのようにぬかるんでいた。
レース中、先頭集団の一頭が水たまりで脚を取られ、転倒。
その真後ろを走っていた騎手が避けきれず、落馬した。
頭部への衝撃はなかったという。
しかし、首を強く打っていた。
搬送された病院で頸椎骨折が判明し、その日のうちに亡くなった。
騎手はまだ若かった。
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ある夏の日。
僕は仕事の都合で、その競馬場に行くことになった。
天気予報では夕方から雨。
ところが昼過ぎから雲行きが急激に怪しくなり、メインレースの頃には猛烈な雨になった。
傘を差しても意味がないほどだった。
雨粒が顔に当たって痛い。
雷まで鳴り始めた。
「こんな日に競馬やるのかよ」
そう思いながら、僕は最終レースを見ていた。
すると、向こう正面に妙なものが見えた。
観客席からでは、遠くてよく分からない。
しかし、確かに馬が一頭走っている。
出走馬ではない。
ゼッケンもない。
騎手だけが、妙に古いデザインの勝負服を着ている。
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