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心霊

川辺に咲くさんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

通ってはいけない小道
長編 2026/08/11 09:27 85view

小道には私が進入した大通り側の入り口と正面に見える住宅街側の出口以外に横道などはなく、養殖池と道のさかいには、公園やグラウンドなどによくある緑色の金網フェンスが設置されているため、行き来ができないようになっています。
また、私が小道の入り口に着いた時、周囲に人影はなく、仮に小道を歩いている人が居たとしても、自転車で追い越せば気がつかないわけありません。
普通に考えれば、その人物は私の後から小道に入り、追いついたということになりますが…。

「後から来て自転車に追いつく速度で走ってきたの?足、速すぎない?」
そんなことを0.1秒で考えながらもう一度振り返ると、その人影は更に距離を詰め、自転車の荷台を掴もうとするかのように手を伸ばしているのです!
「こんなにスピードを出しているのに追いつかれるなんて!」
と思いながらも、アスリートの変質者に捕まったらまずいと、立ち漕ぎをして限界までスピードを出しました。
「すぐに住宅街に出るから、とにかくそこまで走り抜けて、もしもの時は近くの家に助けを求めよう…。」

自転車はぐんぐんスピードを上げているのに、背後の気配はますます存在感を増してゆき、それと同時に違和感に気がつきました。
走る人物の足音や呼吸音が全くしないのです。
聞こえてくるのは養殖池の水音と自転車のタイヤが砂利を踏む音、それと私の荒い息。

足音や息遣いが聞こえないのに気配を感じる理由をうまく説明できないのですが、でも確かにすぐそこまで迫ってきているのです。
しかも、息が上がるくらいにスピードを上げて自転車を漕ぎ続けているのに、たった150メートルの小道からいつまでたっても抜け出せないばかりか、いつの間にか先に見えていた住宅街の明かりも見えなくなり、薄暗い小道が永遠に続くかのように伸びていました。

私は恐怖でいっぱいになりながら脇目も振らず自転車を漕ぐことしかできませんでした。
あまりに濃密な背後の気配に、思わず振り返って距離を確認したい気持ちと、”それ”を見てしまったら、取り返しのつかないことになるという、半ば確信めいた予感とを感じて絶望的な気持ちになりながらただ必死に漕ぎ続けました。

どれくらい漕ぎ続けたでしょうか。
体力の限界まで走りましたが、やがて少しも脚を動かすことが出来なくなってしまい、追いつかれてしまうと思いながらも漕ぐことをやめ、惰性で進む自転車の上で目をギュッと瞑りました。
途端に、湿度を伴った生臭いにおいが一層強くなり、すぐ後ろにあった気配がぶわっと広がって私を包みこみました。

『ねぇ。』
不意に子供にも大人にも思える声が直接頭の中に響きました。
肉声ではないその声は次第に増えて、多重録音の様に重なり合いながら『ねぇねぇねぇねぇねぇねぇネェネェネェネェネェ……』
と、頭の中いっぱいに反響しはじめました。

「目を開けてはいけない!」
反射的にそう感じ、息をひそめて自転車のハンドルを握り締め、身じろぎもできずにひたすら目を瞑っていました。
それからどれくらいの時間が経ったのか…。
数秒だったようにも、数十分だったようにも感じられました。

「〇〇ちゃん!」
突然聞き覚えのある声が鼓膜を震わせ、私は思わずビクッと体を震わせました。
私の名前を呼ぶ声がした瞬間、頭の中に響いていた声が消え、周囲の空気がスッと軽くなった気がして、恐る恐る薄目を開くと、いつの間にか自分が小道の出口まであと少しのところで自転車に跨ったまま立ち尽くしていることに気づきました。
正面にはこちらに駆け寄ってくる姉が見えました。
「こんな遅くまで何をしていたの!?電話も繋がらないし!」
と姉に叱られ、恐ろしかったのと安心したのとで涙目になりながら、再びPHSの小さな画面を確認すると、2時8分…。
小道に入ってから2時間も経っていました。

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