大学2年の夏、僕は家賃が異様に安いアパートに引っ越した。
東京の郊外、築30年、木造2階建て。
家賃は相場の半額、月2万5千円だった。
不動産屋は「少し古いだけ」と言っていたが初日からおかしな点に気づいた。
僕の部屋は202号室。
隣の203号室のドアには、何故かびっしりとガムテープが貼られていた。
ただの空き部屋にしては、異様なほどの警戒ぶりだった。
大家さんに聞いても、「あそこだけは開けないでね」とだけ言って、直ぐに目を逸らした。
最初の1週間は、何事もなく過ぎた。
しかし、うだるような暑さが続く8月の夜、それは始まった。
深夜2時、壁の向こうから音が聞こえる。
「カリ……カリカリ……」
爪で柱をひっかくような乾いた音だった。
203号室は、空室のようだ。ネズミだろうか、と僕は思った。
しかし、次の夜、音は変わった。
「トントン……トントン……」
明らかに、規則正しく壁を叩いている。
そして、その音が少しずつ僕のベットの頭がある位置へと近づいてくる。
壁を隔てて、わずか数10センチの場所に「誰か」がいる気配がした。
「おい、静かにしろ!」
僕は思わず壁を拳で叩いた。
すると、ピタリと音が止まった。
静寂が部屋を包み、自分の心臓の音だけが響く。
安心した瞬間、壁の向こうから、信じられないものが聞こえた。
「ごめん、なさい……」
それは、かすれた女の声だった。
あまりに生々しいひびきに、全身の毛穴が逆立つのがわかった。
僕は布団を頭から被り、朝がくるのを待った。
翌日、大学の友人にこのことを話すと、彼は面白がって「スマホの録音アプリを仕掛けておけ」といった。
恐怖よりも好奇心がかった僕は、夜、寝る前にスマホの録音ボタンを押し、枕元において眠りについた。

























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