夜中に目が覚めることはなかった。
太陽の光で目を覚まし、ホッとしながらスマホを手に取る。
録音データを確認すると、6時間ほどのファイルが作成されていた。
波形をみると、深夜3時を過ぎたあたりで、細かな山がいくつもできている。
僕はイヤホンを耳に差し込み、その部分を再生した。
最初は静寂。
やがてあの「カリカリ」という音が聞こえ、次に「トントン」と壁を叩く音が続く。
ここまでは昨日と同じだった。
しかし、録音データのなかのぼくは、昨日と違って壁をたたき返していない。
ぐっすり眠っているはずだった。
それなのに、音は止まった。
イヤホンから衣類がすれるような「ズズ……」という引きずる音が聞こえる。
いや、違う。
音が、部屋の「内側」へ移動している。
画面に表示された録音波形が、急激に大きくなった。
イヤホンの向こうで、僕自身の静かな寝息が聞こえる。
そして、そのすぐそばで、ハァハァと激しい息遣いが混じり始めた。
寝ている僕の耳元に、何かが顔を近づけているのだ。
カサッ、という小さな音の後、女の震える声が、信じられないほど鮮明に鼓膜を揺らした。
「みーつけた」
鳥肌が止まらなかった。
声はそこで途切れてはいない。女はつぶやき続ける。
「このこ、おきてるときは、壁を叩く。寝てるときは、叩かない。……ねえ、今はどっち?」
息が止まった。
恐怖でスマホを落としそうになった瞬間、イヤホンから最後の音が流れた。
カチリ、と硬いものが押される音。
それは、僕が今、まさにこの音声を「再生」した時のスマホの操作音だった。
録音された過去の音声の中に、今現在の僕の行動が混ざっている。
いや、違う。
女は、過去に呟いていたのではない。


























※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。