ただ一つ、部屋の角にあるベッドの真下を除いては。
ベッドのスカートが、不自然に少しだけめくれていました。
清掃員は吸い寄せられるように近づき、床に膝をついて、ベッドの下を覗き込みました。
薄暗いベッドの底。
そこには、男のスーツケースや、脱ぎ散らかされた服、コンビニのゴミなどが、すき間なくぎゅうぎゅうに詰め込まれていました。
そして、その荷物の奥の、最も暗い壁際に。
男がいました。
男は、自分の膝を抱えて、小さく丸まって座っていました。
衣服はボロボロで、髪は乱れ、目だけが異様なほどギラギラと輝いています。
清掃員と目が合った瞬間、男は人差し指を自分の唇に当て、掠れた声でこう囁きました。
「……静かに。見つかっちゃうだろ。あいつ、もうすぐ仕事から帰ってくるんだから」
男は、自分がこの部屋の主だと思い込んでいたのです。
では、毎朝フロントに鍵を預け、仕事に出かけていたあの男は、一体誰だったのでしょうか。
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