向こうから声。
「まだ?」
神崎は笑う。
「もう返事はしない。」
静かに目を閉じる。
障子は開かなかった。
朝。
看護師が病室へ入る。
神崎は穏やかな表情で亡くなっていた。
枕元には、誰も置いた覚えのない古いICレコーダーが一台。
電源は切れている。
遺品整理の担当者が何気なく再生ボタンを押す。
表示された録音件数は――
**1件。**
再生時間は**00:00:07**。
スピーカーから流れたのは、風の音でも、人の声でもなかった。
ただ、誰かが部屋の中を歩いているような、ゆっくりとした足音。
一歩。
また一歩。
そして最後に、ごく静かな息遣い。
録音は終わる。
担当者は首をかしげ、「空録りかな」とつぶやいて停止した。
そのICレコーダーは機器の不具合として廃棄され、以後、同じ型番の記録は見つかっていない。
—
**完**
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