部屋の中央で老婆と固まる。
『『『『開けてくださいませんか』』』』
もう何人の声かも分からない。
見ると裏手だけでなく、窓という窓の外には影が立っている。曇りガラスでない窓から見える影も、黒いモヤにしか見えない。
横で震えていた老婆が、か細い声で呟いている。
「南無阿弥陀仏…南無阿弥陀仏…」
私も縋るように繰り返す
「南無阿弥陀仏…南無阿弥陀仏…」
外の声が聞こえないように一心不乱に繰り返した。
どのくらい経っただろう。
お経の合間に聞こえていた声が聞こえない。
空が白み始めていた。
老婆と目が合う。
「あれ…なんなんですか…?」
私が青い顔のまま尋ねる。
老婆が答えた。
「分からん。でも酷い雨の日は偶にああいうのが来る時がある。返事をすると恐ろしいことになると教わった。」
昼に差し掛かる頃、雨は止んだ。
後日、公民館から下流の河原で地蔵が見つかった。
どうやらかなり上流から流されてきたようだった。地蔵には掠れきった文字が刻んであり、かろうじて読めるのは、
大正××××水難者之霊××××
という文字だけだった。
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