あれはゴキブリじゃないよ

私は地元の小さなスーパーでアルバイトをしています。毎日閉店の30分前くらいになると生ゴミを捨てに行きます。

このゴミ捨て場は道路と面しており、スーパーと外界を繋ぐ唯一の場所と言っても過言ではなく、それは虫にとっても同じことです。

ゴミ捨て場というのは大層ゴキブリにとっては住心地が良いようで、これまでにも何度か目撃したり、同僚の目撃談を聞いたりしていました。ですから、その日ゴキブリが壁に張り付いているのを見ても「ああ、またいるなぁ」くらいに思っていました。

ところがその日のゴキブリは少し様子が違っていました。一つのところにじっとしていないし、見た目もどこか違っているように感じました。妙に足が長いというか…

最低限の意識をゴミ袋を放る事に向けながらゴキブリを見ていると、「カシャ」という音が聞こえました。

…カシャ?

それはまさしくカメラのシャッター音と同じ音であり、まさしくゴキブリのいる所から聞こえた音でした。

とんでもな都市伝説として「イカは遥か昔に宇宙人が地球に送った監視用の生物兵器である」というものがあります。

「たしかゴキブリも恐竜とかの時代からいるんだよな…」

そこまで考えた所で私はあることに気が付きます。

先程まで忙しなく動き回っていたゴキブリが制止した状態でじっと私の方を見つめているのです。

私は急いでゴミを運ぶためのカートを押し、走って店内へと戻りました。背後から、またあのシャッター音が聞こえた気がした。