先輩は足元に置いていた鞄を拾い上げ、肩に掛ける。
「じゃあ、あの告白はなかったことにする?」
「……はい」
「そ。わかった。それじゃあ杉崎くん、元気でね。デート、楽しかったよ」
極々自然に軽くウインクをして先輩は教室を出ていった。
俺は軽く頭を下げる。
それは感謝と謝罪のふたつの意味があったけど、先輩との――というか、先輩に憧れていた自分との決別の意味も含まれていた気がする。
「あ、そうそう」
ひょこっと顔だけ教室に入れて、先輩は俺に忠告? をくれる。
「キミは私のこと天使みたいって思っててくれたけどさ」
少しだけ間をおいて、いたずらっぽく笑いながら言う。
「天使がいるなら悪魔もいるってことかもしれないね」
「……?」
俺には先輩の言わんとすることが理解できなかったけれど、自分にも悪魔的な部分があるよということなのかもしれないな。
良いところがあれば悪いところもある。
そういう、当たり前のことに気づけるような男になれよっていうエールなのかもしれない。
先輩が去ってから数秒後、カタッと控えめな音と共に後方のドアが開かれる。
「……終わった、のかな?」
おずおずと、らしくもない挙動不審さで遠慮がちに教室に入ってくる遊佐に、俺は小さく嘆息しながら「終わったよ」と返す。
「……どうなったの?」
「振られた」
「…………」
「まあ、こんなもんだよ。だって俺だぜ?」
努めて明るく自虐的なことを言ってみたけれど、なぜか遊佐は泣き出した。
「な……なんで泣くんだよ」
「……わがんない」
鼻水をボタボタ床に落としながら、制服の袖で目元を拭う遊佐の鼻にティッシュを当てると、思いっきり鼻をかんだせいで、俺の手は鼻水でびしょ濡れになる。
「遊佐。俺ちょっとだけ成長した気がするわ」
「……うん」
「遊佐のおかげ」
「……」
「ありがとな」
「……うん」


























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