廊下で重い扉が開く音がした。
「施錠確認です」
若い声だった。
守衛が続ける。
「先生、今夜、四階に入れるのは鍵を持っている研究室だけです。あなたの研究室と、もう一つ」
「どこですか」
「三十年前に閉鎖された、生体標本室です」
その瞬間、研究室の棚に目が止まった。
白い蓋のケースがあった。
見覚えはない。だが、そこにあることに違和感がない。最初からあったように思える。
ノックが止まった。
私は近づいた。蓋に触れる。温度は室温と同じだ。だが、匂いはここから出ている。
蓋を持ち上げる。
中身は見ない。
ただ、確かに何かが沈んでいる気配だけがあった。
そのとき、廊下で声が上がった。
「……先生? 四階に誰もいませんよ。水も止まってます。封鎖は解除されてません」
守衛の声が受話器の奥で揺れる。
「先生、今どこにいますか」
私は研究室にいる。
そのはずだった。
窓の外を見た。中庭が見える。だが配置が違う。樹木の位置が反転している。渡り廊下が一本、多い。
匂いが強くなる。
棚のケースが、いつの間にか二つになっていた。
白い蓋が並んでいる。
ノックが、今度は内側から鳴った。
規則正しく、一定の間隔で。
私は返事をしない。
返事をしなければ、止むことは知っている。
だが止まらない。
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