最後のページに、こう書かれていた。
――ここにいれば、迷わなくていい
――汚れなくていい
――選ばなくていい
だが、その下に、
鉛筆で、何度も消された跡が残っていた。
本当は、
何を書こうとしたのか。
聖クリストファーは、旅人を守る。
だがそれは、
彷徨い続ける自由から守る、という意味なのかもしれない。
もしあのとき、
トイレのすすり泣きを
「気のせい」で済ませていたら。
俺も今頃、
白い家のどれかに立ち、
色あせたTシャツを着て、
何も迷わない顔で、
“次の旅人”を待っていただろう。
だから、ヒッチハイクはやめた。
危険だからじゃない。
同じになることが、
生き続けることだと、
言えなくなるからだ。
守られすぎる旅は、
人を帰さない。
帰り道がないのではない。
――帰る必要が、なくなってしまうのだ。
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