後で知った。
二十年前、あの山で失踪事件があった。
ヒッチハイクしていた若者が、数人、まとめて消えている。
唯一残っていた証言に、こんな一文があった。
家はきれいだった
きれいすぎて
何が汚れているのか
分からなかった
聖クリストファーは、旅人を守る。
でも、行き先までは選ばせてくれない。
今でも思う。
あの夜から、俺の旅は変わった。
道端に立っても、車はやけに止まる。
雨の日も、夜道も、山の中でも。
親指を出す前から、減速してくる車さえあった。
助けられている。
そうとしか思えなかった。
乗せてくれる人は、みな親切だった。
飲み物をくれ、食事を分け、宿を紹介してくれる。
ときには「今日はここに泊まっていきなさい」と、家に招かれることもあった。
だが、決まっていることがあった。
どの家も、きれいだった。
最初は偶然だと思った。
だが回数を重ねるうちに、気づいてしまった。
汚れがないのではない。
汚れが“残らない”。
灰皿は使われているはずなのに灰がない。
風呂場は濡れているのに、水滴が落ちない。
子どもの靴があるのに、泥が付いていない。
そして、どの家にも、同じ匂いがした。
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