む、今日のミコはノリが悪い。あまりにも釣れないので俺は切り札を出すことにした。
「まあそう言うなよ。噂だとその駅ってのが、うち高校のすぐ近くにある『中里駅』らしいぜ」
一見する価値はあるんじゃないか。俺がそう言い終えるやいなや、彼女はすくっと立ち上がって「じゃあ今日の夜そこに集合で」とこちらを振り向きもせず立ち去ってしまった。彼女は間違いなくこの話に興味を持っている。俺はミコの眼差しが一瞬チラリと光ったのを見て、そう確信していた。
〇
それから数時間後。俺たちは中里駅にいた。電車に乗らなくても入場券というものさえあれば、構内には入れるらしい。俺はその存在を今日初めて知った。
時刻はあと一分で十二時を回る。次の列車が今日の終電だ。俺の横にミコが座って、二人仲良く並んでベンチに腰掛けて・・・いるわけもなく、彼女は先ほどからあちこちうろちょろしていた。
この駅はそこそこ大きな車庫に隣接する形で敷設されてためか、周辺も住宅が少なく、人の乗り降りもあまり激しくはない。先ほど来た列車でも降りていったのはたったの数名で、なんとも侘しい様子だった。そのおかげといってはなんだが、駅員が常に見張っているなんてこともなく、ホームには俺たち二人しかいない。高校生とバレてしまっては元も子もないと思って一応、変装をしてきたのだが、どうやら杞憂だったらしい。
ミコは相変わらずホームの下を覗いたり、支柱の裏を見たりして何かを探しているようだった。
「ところでさ」
こちらに戻りながらミコが話しかけてきた。
「私も調べてみたの、この駅のこと」
「お、そうか」
「ええ、学校のパソコンでね」
まあ、インターネットとは程遠い生活をしているもんなお前は、という言葉が喉まで出かかってぐっとこらえる。
「それでわかったことなんだけど、この駅、過去三年間に人身事故が六十三件も起きてるの」
そのほとんどが深夜帯に起きていて、飛び降りた者はみな自ら身を投げ出す形で列車にはねられていったのだという。さすがにそこまでは知らなかった。
「おかしいのは、三年以上前には人身事故なんてちっとも起きていなかったってことよ」
「どういうことだ」
「あなたの言ってた投稿って三年前の話でしょ? その時期と事故が頻発するようになった時期が重なるの」
言われてみて、俺はそこで初めて気が付いた。
「じゃあ、その投稿者が何かしたっていうのか」
ミコは黙って首を横に振る。
「ううん、多分そうじゃない。」
「なら・・・なんだっていうんだよ」
俺の疑問に答えるように彼女は語り始めた。
「三年前の五月、ある男性が自殺した」
その五月の一件以降、急激に人身事故が増えているらしい。もしかしたら、その男性の地縛霊が人々を死へ誘っているとでも言うのだろうか。しかし、そうではないと彼女は続けた。
「警察は自殺と断定したそうだけど、それは現場の証拠から結論付けただけ。だって周りには誰もいなかったものね。実際は・・・彼に自殺する動機なんて一切なかった」
それだけではない。男性以外の自殺者についても同様に、動機をいくら調べても調査記録には軒並み『不明』の文字が並んでいるだけ。誰もがみな明確な意思を持って飛び込んだわけではない。そう考えざるを得なかった。彼女が一体どこからそのような資料を入手しているのかは定かではない。だが右手に持ったその紙には、確かに部外秘の印が付されている。



























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