「あなた方、気をつけられた方がよろしいですわ」
「一体、なんのことかしら?」
毅然として聞き返すミコに、その女性は口元を抑えてクスッと笑った。いかにも上品な振舞なのだが、目元が全く笑っていない。
「月待さん・・・でしたっけねぇ、旦那様が大層お会いになりたがっておりました」
「チッ」
ミコが舌打ちをする。
何のことだか、話についていけない。戸惑う俺をよそに、その女性は「またいずれ」とだけ言い残して再び闇の中へと消えていった。
「なぁ、ミコ、」
と言いかけて俺はそれを止めた。ミコの目に明らかな動揺が見て取れたからだ。
俺はそんな顔をする彼女をその時、はじめて目にした。
〇
後日、俺は件の制作会社を訪ねてみることにした。住所はケースの裏面に書かれていたのですぐにわかった。地図で調べると、ここからチャリでも行ける距離だった。しかし・・・
「ここ・・・でいいんだよな?」
『不知火プロダクション』なる会社はそもそも存在していなかった。廃ビルも同然の寂れた建物だけがそこにぽつんと佇んでいる。『テナント募集中』と書かれた貼り紙は何年も前からずっと日の光に晒されてきたかのように、ひどく色あせている。俺はそれを確認すると、もうこれ以上はやめようと心に決めた。
それからというのもの、レンタルビデオ屋に行っても『不知火プロダクション』の文字を目にすることは二度となかった。
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