俺はその文を指でなぞった。
紙が脈打つように震えた。
ふと、背後で本棚が軋んだ。
音の方を向くと、埃をまとった背表紙がひとつ、勝手に抜け落ちた。
床に開かれたそのページには、
——「昭和五十六年 黒澤第一小 白線異動の記録」
とあった。
写真が貼られていた。
白黒でぼやけた運動場の写真。
そこに、小さな円。
そしてその中心に、三人の子どもが並んでいる。
一番左の子が、小山だった。
真ん中の子が、誰かに似ていた。
俺だった。
喉が焼けるように乾いた。
ページをめくると、裏に走り書きがあった。
──三人で掘った。二人を返した。残った一人が、環を繋いだ。
意味がわからない。
だが、その文字を見た瞬間、
脳の奥で何かが弾けたように記憶が戻った。
俺と小山、そしてもう一人——。
女子だった。
いつも遠巻きに俺たちを見ていた。
名前が、どうしても思い出せない。
けれど、白線の中心を掘ろうと言い出したのは、彼女だった。
気づくと、床に白い粉が散っていた。
紙の破片のような、石灰のような。
それがゆっくりと円を描き始めていた。
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