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意味怖(意味がわかると怖い話)

どこかで見た話さんによる意味怖(意味がわかると怖い話)にまつわる怖い話の投稿です

白線
長編 2025/11/30 12:30 2,431view

 

 その中心に、ひとつの文字があった。

 ──かえす。

 

 俺は、思わず息を呑んだ。
 その瞬間、スマホが震えた。
 画面には見覚えのない番号。
 通話を取ると、無音。

 ただ、遠くで子どもの声が囁いた。

 「かえしてくれて、ありがとう」

 次の瞬間、通話は途切れた。
 そして、スマホの画面が、真っ白に光った。
 円のように。

 その夜の記憶は、今でも曖昧だ。
 だが、たしかに俺は、〈柳樽堂〉の裏口から中に入った。
 鍵は閉まっているはずだったのに、扉はするりと開いた。
 誰かが俺を待っていたように。

 奥の書庫には、灯りがひとつだけ点いていた。
 蛍光灯の白い光の下に、例の古い郷土誌が広げられていた。
 ページの端は茶色く焼け、紙の繊維がほつれている。

 だが、文字ははっきりと読めた。

 ——「黒澤村 鎮魂の環(いわい)」

 そこには、百年前にこの土地で行われていた奇妙な風習が記されていた。
 疫病や行方不明が続いた年、村人は子どもたちを一か所に集め、
 白い粉を撒いて“輪”を描いたという。
 その中心に“返すもの”を埋めるのだ。
 “返すもの”とは、村の外から迷い込んだ者の名。

 

 ページの下部に、墨でにじんだ文字があった。
 「返さぬ者は、環の外に置かれる」。

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