彼は言葉を濁し、視線を落とした。
「いえ、気のせいでしょう」と微笑むが、
その顔色は明らかに青ざめていた。
外に出ると、日は傾きかけていた。
駅までの道を歩きながら、何度もスマホを確認した。
録音データのフォルダに、新しいファイルが増えている。
自動録音機能など使っていないはずなのに。
再生ボタンを押すと、
雑音の中に、俺の声が混じっていた。
取材中のものとは違う。
文体も、話し方も、ほんの少し違っていた。
「……黒澤第一小学校。
白い環の中心には、記録が埋まっている。
掘り返した者は、次の語り手になる」
背中に冷たい汗が流れた。
誰が、いつ、録った?
俺か? それとも——前の“俺”?
ホテルに戻って鏡を見た。
自分の顔に、違和感があった。
正確には、“顔の輪郭”が曖昧に感じられた。
光の加減ではない。
顔の端が、微妙に白く滲んでいる。
思わず指でなぞると、
指先に白い粉が付いた。
チョークのような、乾いた感触。
部屋の壁を見ると、
そこにも円が描かれていた。
白い線。
まるで、誰かが寝ている間に描いたような。
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