「Nさん、いったい何を見たんです?」
「君はまだ若いからこれから色んなことを経験すると思う。でも異文化に触れる機会があったら絶対にその土地の人の言うことを聞きなさい。それと、さっきも言ったけど、怪異に近づくのはよした方がいい。ネットや本で怪談を読む程度がいいよ」
「まぁ⋯そうですね、僕自身怖がりなので心霊スポットとかは行かないから安心してください」
その時N氏の携帯電話が鳴った。
それは古い黒電話のような着信音だった。
「嫌だ⋯!もう勘弁してくれ!」
いきなり大声で取り乱すN氏。居酒屋の他の客が一斉にこちらを見る。
スマートフォンを耳に当て叫ぶN氏。
「もういい加減にしてくれ!!!私が君に何をしたっていうんだ!!!」
その時、なぜだろう。聞こえるはずもないのにN氏の電話相手の声が聞こえた。
『にげられないよにげられないよにげられないよ』
古いビデオテープを早送りにしているような音声で確かにそう繰り返していた。
「醜いところを見せてしまったね」
電話を切ったN氏は酷く憔悴していた。
「今日はもうお開きにしよう」
N氏とはその日以来、連絡が取れなくなってしまった。彼が今どこで何をしているのか、生きているのかすら私には分からない。
私はN氏に『なにを見たのか』と聞いた。
N氏はその問いに答えなかった。もしかしたら彼は『何も見ていない』のかもしれない。
得体の知れないものが『見える』ということだけが怪異ではないのだ。
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