だが俺たちはそんな話を信じるタイプじゃなかった。
むしろ怖い話をネタにして笑い飛ばす側だ。
亮介からLINEが届く。
『おう、準備OK? 入口のとこで待ってるわ』
既に現地に着いているらしい。
俺はバイクにまたがり、エンジンをかけた。
夜風を切りながら、街灯の少ない道を抜けていく。
やがて街の明かりが遠のき、代わりに真っ黒な山の影が視界を覆った。
山の麓にある小さな駐車場にバイクを止めると、エンジンの音が静かな夜に吸い込まれていった。
あたりはすでに真っ暗で、外灯も一つしかない。ぼんやりとしたオレンジ色の光が、地面の砂利を照らしている。
入口の方を見ると、そこに亮介の姿があった。
黒いパーカーにリュック、手には懐中電灯をぶら下げている。
その顔は、まるで遠足前の子どものようにわくわくしていた。
「おっ、来たか!」
「おう。……マジでやるんだな」
「当たり前だろ。せっかくの連休だし、ちょっとぐらいスリル味わわねぇと!」
亮介は笑いながら、山の入り口を指さした。
そこには錆びついた鉄の柵が立っており、“立入禁止”の看板がぶら下がっていた。
けれど、誰かが動かしたのか、柵の一部が開いている。
「……入るの、ここからかよ」
「そりゃそうだろ。こういうのは“違反”してなんぼだって」
軽口を叩きながら、亮介は柵の隙間をすり抜けていく。
俺は一瞬ためらったが、結局後を追い、俺と亮介は軽いノリで夜の山に入った。
亮介は「どこまで行けるか勝負だ!」なんてはしゃぎ、俺もつい笑いながらついていった。
しかし、道がだんだん細くなり、枝や蔦が行く手を遮る。
懐中電灯の光が揺れて、影が妙に大きく見える。
「……おい、これ、道合ってるのか?」
「いや、たぶん行けるって!」
最初は笑っていた俺たちも、次第に声が小さくなる。
どこを見ても同じような木々と暗闇ばかりで、道標もなく、まるで迷路に迷い込んだようだ。























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