風が木々をざわめかせ、遠くで何かがガサッと動いた気配に、思わず亮介と目を合わせた。
笑いながら来たはずなのに、背筋がぞっとする。
「……マジで迷ったかもな」
「いや、まだ大丈夫だろ」
そんなやり取りをしながらも、胸の奥にざわつく不安を感じていた。
不安が増す中、俺はポケットから携帯を取り出して電波を確認した。
「……圏外かよ」
亮介も同じように携帯を取り出すが、画面には赤い×印しか出ない。
笑いながら来たはずなのに、今の俺たちには笑いの余裕なんてなかった。
「やべぇな……どうすんだ、これ」
「まあ、ちょっと進んでみるか……」
そう言いながらも、足は自然に止まることが増え、暗闇の奥へ進むたびに、胸の鼓動が速くなる。
森の中の静寂が、妙に重く、耳の奥でじわじわと不安を煽る。
気づけば、どこをどう歩いてきたのか、まったく分からなくなっていた。
「……おい、さっきこの倒木、通ったか?」
「いや、覚えてねぇ……てか、同じとこぐるぐるしてね?」
亮介の声にも焦りが滲む。
懐中電灯の光が頼りない円を描き、木々の間をさまよう。
木の幹には何も目印がなく、道らしい道も見当たらない。
「おかしいな、登山道のはずだろ……?」
俺たちが立ち止まると、風ひとつ吹かない森が、まるで息を潜めるように静まり返った。
自分たちの呼吸と、湿った土を踏みしめる音だけがやけに大きく響く。
その瞬間――
どこからか、「カサ……」と草を踏むような音がした。
「……今の、聞こえたか?」
思わず亮介の袖をつかむ。
「お、おう……。まさか、熊とかじゃねぇよな……?」
冗談めかして笑おうとするが、喉が乾いて声がかすれる。
頭の中でニュースの映像がよぎる。
“登山客、熊に襲われ重傷”――そんなテロップ。























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