麻衣の口角がクッと上がり、嫌な表情になる。
「あの子、宣言通り自殺したよ。3年前に」
自殺という言葉に花ちゃんは眉をひそめ、俺は「ええ!?」とデカい声を出してしまった。
「〇〇県の橋の上から飛び降りたらしいよ」
〇〇県…エリナの祖父母宅と、「ざんか様」の祠がある山の県だ。
…そうか。エリナは八潮のいう「怪物」とやらに、とうとう最期まで騙され、宣言通り嫁に行ったんだな…。
俺は、あのエリナのざんか様を語るときの、なんとも言えない恍惚とした笑顔を思い浮かべ、何も言えずにいた。
すると、麻衣はそんな俺を見て「ぷっ」と噴き出し、元のトーンに戻ると「やっばいよねー!最後までおかしかったわあの子!」
と、ケラケラ嗤う。
俺はなんでこんな女に惚れてたんだろうか…。若かったとはいえ、こんなにも他人を蔑むような女に惚れていたなんて、信じられない。信じたくもない…。
俺は呆然としている花ちゃんの肩を抱き、「…じゃあ俺たち、もう行くから」と、別れの挨拶もそこそこにイベント会場を後にした。
「…なんだか、すごい人だったね」
帰り道、麻衣のペースに圧倒されたらしい花ちゃんがつぶやく。
「…嫌な思いさせてごめんね」
花ちゃんは少し驚いた顔を見せたあと、いつものように優しい笑顔で
「品川くんはもう無関係なんだから、謝る必要ないでしょ?」と言ってくれた。
麻衣との別れがなければ、花ちゃんとの出会いもなかったわけで…。
俺は心底、あの時俺を理不尽に振ってくれた麻衣に感謝した。
「でも、なんか怖いね。あの人のあの感じ…」
「…たくさん背負ってるし…」
その花ちゃんの、誰に言うでもなく小さく囁いた言葉に、俺のアンテナが一瞬引っかかったような気がしたが…。
今は触れずにおこうと思った。

























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