「…もしかして、御霊信仰…ってやつかな…」
霊は見えてもオカルトに全く興味のない八潮は、頬杖をつき、すっかり冷えてしなしなになったフライドポテトを咥え、怪訝そうな顔をしている。
「御霊信仰って言って、疫病や災害をもたらすとされる怨霊を鎮めるために、神格化して祀ったりするんだよ。菅原道真とか平将門なんかが有名なんだけど…」
八潮は俺の力説には全く関心がないようで、「ほーん…」などという気の抜けた返事が返ってきた。
「…要するに、もしかしたらその山には昔からそういった類いの霊がいて、山の持ち主であるエリナちゃんの先祖が祀ったのかも知れないなって…思ったんだよ!」
もっと色々と語りたいところだったが、興味のなさそうな八潮の顔を見ていたら、なんだかやる気が削がれてしまい、早々にまとめにかかる。
八潮は珍しく相当酔っているのか、んあぁ…と何やら呻いたかと思うと、天を仰ぎつつ「あー…。霊…っていうよりは…もっと実体を持った何か…。妖怪とか…そういうなんか…怪物?的な?……」と、言ってテーブルに突っ伏してから動かなくなった。
「………」
「…八潮?」
八潮の顔をベシベシと叩くも、反応がない。
「八潮くーん?」更に強く叩く。
うー…と呻いて手をブンブンと振り回してくる。
とりあえず意識があることに胸を撫で下ろし、「寝てるだけか…」そう呟いてからハッとした。
まさかこれ、俺が全部支払ってタクシーで八潮を送っていかなきゃいけないかんじ…?
俺は恐る恐る伝票を確認して、がっくりと肩を落とした。
ーーー
それから5年ほどの間に、麻衣に浮気されて別れたり、介護の資格を取ったり、最高の彼女に出会って結婚を考えたり…と、様々なことが起こった。
そして、すっかり当時の記憶も薄れた頃。
好きなアーティストのイベントで、ばったりと麻衣に遭遇してしまった。
既に大酒が入っているらしく、出来上がっていた麻衣は、浮気して振ったことを悪びれるでもなく気さくに話しかけてきやがったのだ。
俺はなんとなく同行していた現彼女の花ちゃんを守る体制になり、身構えた。別に何かされるわけではないのだが、花ちゃんが汚れてしまうような気がして嫌だった。
久しぶりじゃーん!から始まり、俺の肩を遠慮なくバンバンと叩く。
そうだ、こいつはこういう女だった。
暫く麻衣のマシンガントークを聞かされ、俺と花ちゃんはいつこの場を離れようか…と目配せして苦笑いしていた、その時。
「ねぇ、そういえばさ…」
いきなり神妙な面持ちになり、声を潜める麻衣。
「エリナって覚えてる?」
名前を言われてもパッと思い出せなかったが、「ぶっとび霊感少女」というワードで急激に記憶が蘇った。

























※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。