「…残念。やっぱりそうだったんですね。……忠告ですけど、あんまりそういうことを吹聴しないほうがいいですよ」
エリナはそそくさとテーブルに2000円を置き、「これで足りますよね?…マイちゃん、せっかく呼んでもらったのにゴメンね。私、帰る。ウソつきとはお酒飲みたくないの」
と、俺たちのほうを見向きもせずに颯爽と去ってしまった。
「……ぶっ…あははは…!やるね〜。八潮ぉ」
唖然とする俺の横で、麻衣がずっと堪えていたであろう笑い声をあげた。
その声に我に返った俺は、事の真意を確かめようと八潮に向き直るが、八潮はこめかみを親指でグリグリと押し、「あーくそ。頭痛てぇ…」と何やらボヤいている。
なんとなく八潮に問いただすのを躊躇っていると、麻衣が俺に項垂れ、ニヤニヤしながら「ふふ…ねぇ、もっと怖い話してあげようか?」と上目遣いで言う。
「実はあたし、あの子とは中学が一緒でさぁ。一度もクラスは被らなかったんだけど、友達からの情報は入ってくるわけよ…」
麻衣はもったいぶった間を空け、怖い声色を作り、続ける。
「…あの子、普通に都内出身者で、小中高…なんなら幼稚園からずっと都内の狭い地域で完結してる。両親もお姉さんも生きてるし、未だに都内の実家暮らしなんだよね…」
どうやら、麻衣自身も小学校の学区は違えど同じ区の出身であり、幼い頃からエリナとの交流がある友人知人もチラホラといるようで、そのほとんどが日常的なエリナの虚言癖に辟易している…ということだった。
盛大なネタバラシをしたことで、麻衣はえらくご満悦だったが、俺は人の闇を覗いたような気がして、少し震えた。
神様との婚約、家族の死、自らの死の予言。
それら全てが、エリナの作り話だった…?
麻衣の交友関係に自分の素性を知るものがいるとわかっていながら、こんな壮大な嘘をついたあげく、他人を嘘つき扱いしている…?
一体どういうつもりなんだ…?
その後すぐに、麻衣は友人(今考えたらきっと浮気相手だったんだろうな)から呼び出しがかかり、エリナの置いていった2000円をかすめると、上機嫌で退席した。
八潮と2人きりになった俺は、意を決して真偽を確かめるため、おずおずと問いかけた。
「俺、からかわれてたの?」
半笑いの俺を見て、八潮は深いため息をつき、「そういうことにしておければ楽だと思ったけど、…なんか癪に障るな」
と、ボリボリ頭を掻いてから話を続けた。
「…見えてたよ。ずっと。あの女の左側に、ブッサイクな面の…犬?狐?…なんでもいいや…どす黒くて気持ち悪い奴らがまとわりついてたな。あんなのが神なわけないんだよ」
「そんであいつ、話したことが真実だと思い込んでる。…というより、「思い込まされてる」。親も実家もあるけど、あいつの頭の中の事実と異なってるから見えてない。だからあんな見え透いた話をしたとて、平然としていられる。本人からしたら嘘はついてないんだから、当然だよな」
…やはり酒が入った八潮は饒舌になる。
からかわれていたわけではないと知って一旦はホッとしたが、八潮の話の中に一つ気になることがあった。
「でもさ、神様じゃないとして、一体なんなんだよ。彼女にそこまで盲信させて、洗脳するような奴なんだろ?神様ぐらい力が強くないと、そうはいかないんじゃねぇの?」
「…俺は霊能力者じゃないし、んな詳細まではわからんよ。…ただ、恐らく山の中の祖父母の家ってのはマジであって、その山での出会いは本当だったんだと思う。山、古民家、朽ちた祠、黒い怪物…そういうイメージは見えたからな」
そこまで聞いて、へぇ…八潮にはそういう風に見えてるのか…と、興味深く思いながらも、俺は嫌なことを思いついてしまった。























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