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呪い・祟り

どこかで見た話さんによる呪い・祟りにまつわる怖い話の投稿です

萱津村
長編 2025/10/11 23:09 4,021view

ただ、私の足音だけが響く。

それが妙なことに、まるで誰かが後ろを歩いているかのように聞こえた。

振り返っても、そこには誰もいなかった。

それでも、木々の間から、薄明かりの中から、何かが見ているような気配が消えなかった。

私は、ある古びた家の縁側に腰を下ろした。
そこで、ふと手にした古い日記の頁が風にめくられた。

文字はかすれていたが、幾つかの言葉は鮮明に残っていた。

「……かやつの地にて、忘れられし者たちが眠る。
此処は時間に忘れ去られ、記憶の狭間に閉ざされた場所。
訪れる者は己の影を失い、己が何者かを見失う。」

読むうちに、私の記憶もまた少しずつ欠落し、揺らぎ始めた。

名前、過去の断片、声の調子。
すべてがどこか遠い幻のように霞んでいく。

それはまるで、私の存在そのものがこの村に溶け込み、曖昧な影へと変質していくかのようだった。

そのとき、再びあの異形が姿を現した。

無表情でありながら、歪んだ笑みを浮かべ、口は動かず、目は深い闇を映していた。

私に語りかけるでもなく、ただ見つめ続ける。

私はその存在が、かつての記憶や現実といったものを曖昧に繋ぐ「境界」なのだと悟った。

この村はただの地理的な場所ではなく、時空の狭間、忘却の淵。

ここに入り込めば、誰もが自分自身を見失う。

それでも、私の中のどこかで、声が叫んでいた。

「戻れ」と。

しかし私は、もう引き返せないのだと理解していた。

この村は私の魂を呑み込み、記憶を奪い、ゆっくりと私を変えていく。

夜が更けると、木々のざわめきがますます深くなり、私の内側から何かが目覚めていくようだった。

そして最後に、私の声が消え、歪んだ「かやつ」の声がその空間を満たした。

私はもう、どこまでが自分なのかわからなかった。
霧の中、私は自分がどこにいるのかもわからなくなっていた。
名前も、姿も、声さえも、すべてがぼやけていく。
まるで深い森の陰翳に吸い込まれ、形なきものと溶け合うように。

4/6
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