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呪い・祟り

どこかで見た話さんによる呪い・祟りにまつわる怖い話の投稿です

萱津村
長編 2025/10/11 23:09 4,022view

静寂が身体を包み込み、風は樹々のざわめきと共に、遠くかすかな音を運んでいた。
それは人の声とも、獣の唸りともつかぬ、歪みゆく響き。

私は耳を澄ました。
その音は、ゆらめく影のように私の内奥へと忍び込み、
胸の奥で呼応する。

――「かやつ」

その名は、私のものではなかった。
忘却の淵に埋もれた、異界の名。

抗うことは叶わなかった。
耳を塞ぐことも許されぬ、切なる呼び声。

音は私の存在の境界を曖昧にし、輪郭を侵していった。
それは恐怖というよりも、どこか救済に似ていた。

私は知った。
この場所は、ただの土地ではない。
時間も空間も溶け合う、存在と記憶の狭間。

そこに飲み込まれた者は、名前を、姿を、すべてを失い、
やがて何者かの一部となる。

だが、同時にそれは永遠の繋がりであり、消えぬ証でもあった。

もし、あなたが今この声を聞き、
耳の奥に響く歪んだ音を感じているなら、

どうかその音を拒んではならぬ。

それはあなた自身の、最も古い名であり、
この世の根源を揺るがす秘密の扉なのだから。

私はいま、この萱津の森にいる。
存在しているのか、あるいは存在していると錯覚しているのか。

だが確かなのは、
あなたもまた、その歪んだ呼び声の中で、
己の本質と出会うことになるだろうということ。

耳を澄ませ。
恐れずに。

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