一瞬、皿を洗う手が止まる。胸の奥がざわりとした。まさか…
慌てて表に出ると、そこには新人に怒鳴られているバチさんの姿があった。
新人は腕を組み、眉を吊り上げて睨みつけ、客相手とは思えない態度を取っていた。
その一方で、バチさんはというと、相変わらず不思議な笑みを浮かべて、何も言わずにこちらをちらりと見た。
俺の背筋に冷たい汗が伝う。
やばい。これは、やばいことになる。
新人は止まらなかった。
「それにその小銭、錆びてるし汚いし!臭いまでついてんじゃねぇっすか!マジで不衛生だから、他行ってくださいよ!」
「ていうか、その格好もボロいし……何ですか?浮浪者か何かっすか?こんな店に来んなって!」
言葉の刃が、立て続けにバチさんへ突き刺さる。
周りの客たちもざわつき始め、空気が一気に張り詰めていく。
バチさんは、ただじっと新人を見ていた。
笑っているような、睨んでいるような…その表情は読めない。
俺は心臓を掴まれたみたいに冷たくなり、喉が渇いて声が出なかった。
バチさんは静かに立ち上がった。
その動きはゆっくりなのに、なぜか店全体の空気がぎゅっと重くなるように感じられた。
「…ならぁ…今日は帰るぅよぉ。…その代わり…あんたぁ……バチ当たるよぉ……」
低く、湿った声。
まるで店内の照明すら一瞬、陰を落としたように思えた。
新人は一瞬たじろぎながらも、強がるように「はぁ?脅しっすか?意味わかんねぇんだけど」と吐き捨てる。
だが、その声はほんのわずかに震えていた。
バチさんは何も言わず、扉を開け、鈴の音と共に外へ去っていく。
俺はゆっくりと新人に歩み寄った。
「……おい、今の人、バチさんだよ」
新人は「えっ?」と間抜けな声を出して固まる。
さっきまでの威勢はなく、肩がピクリと震えた。
「だから言っただろ。バチさんには丁寧に接客しろって……」
俺は低く言い聞かせるように告げた。
新人は唇を噛み、「……マジで?あの汚ぇおっさんが?」と小声で返す。
その声には動揺と、ほんの少しの後悔が混じっていた。
























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