店内の空気はまだ重苦しいまま。
俺の胸にも、説明のつかない嫌な予感がじわじわと広がっていった。
俺はとりあえず食器を片付け、客に注文を届け、何事もなかったように仕事を続けた。
だが胸の奥では、さっきのバチさんの「バチ当たるよぉ」という言葉がぐるぐると回っていた。
しばらくして店長が戻ってきた。
「ただいま。……あれから大丈夫だったか?」といつもの調子で声をかけてくる。
俺は少し迷ったが、正直に答えることにした。
「……店長。実は……さっき新人が、バチさんを追い出しちゃったんです」
その瞬間、店長の顔色が見る見るうちに青ざめた。
「……な、何だって……?」
あの普段冷静な店長が、まるで血の気が引いたように固まっている。
俺は思わず息を呑んだ。
店長の顔がさらに引きつる。
「新人の子はどうした!? バチさんは、何か言ってなかったのか!?」と慌てた様子で俺に問いかける。
俺は少し口ごもりながら答えた。
「新人はさっきシフト終えて帰りました……。バチさんは今日は『帰る』って言って帰ったんですけど……」
店長は一瞬言葉を失い、手で額を押さえる。
その目には、ただならぬ恐怖と焦燥が滲んでいた。
「……くそ……まずい……」と、低く小さく呟く店長。
「大丈夫ですか、店長?」と俺が尋ねると、店長は肩を落とし、少しだけ苦い笑みを浮かべて答えた。
「◯◯君……新人君のことは、早いうちに辞めることになるから……」
その声には、ただの忠告以上の重みがあった。何か“避けられないこと”が起きることを、店長自身が既に悟っているかのようだった。
やがて数日後、突然新人は無断欠勤を続けるようになっていた。
「どうしたんだろう…」と、俺は首をかしげながら仕事に集中していた。
すると、昼過ぎになって新人がやってきた。だが、その様子は明らかにおかしい。目の下には濃い隈ができ、全身を小さく震わせるように自分を抱きしめながら、ぶつぶつと何かを呟いていた。
言葉の内容は聞き取れず、ただ怯えきった表情だけが、異様さを際立たせていた。
俺は思わず声をかけた。
「どうした?何があったんだ?」
すると新人はゆっくりと俺の方を見上げ、その目には恐怖と混乱が入り混じっていた。口を開こうとするが、言葉は震え、うまく出てこない。小さな声で、かすかに呟くように
「…あの人が…」






















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