「お義母さん、昨日……あれは、何だったんですか?」
佳代は静かに数珠を撫でながら答えた。
「“ツヅラサキ”よ。間違いないわ。……あれが来たってことは、
この家の“赤ん坊”──心美が狙われてるってこと」
咲子の喉が鳴った。
「でも……どうして?」
「赤ん坊のいる家だけに現れるの。“ろうそくだせ”の歌を使って
近づいてくる。でも本当の狙いは、“ややこ”──赤ん坊のこと。
心美が、狙われてる」
咲子は抱き上げた心美を見下ろし、震える手で頬に触れた。
温かい。しっかりと息をしている。命が、ここにある。
「大丈夫よ」と佳代は言った。
「昨日と同じように名前を聞けばいい。やつらは“名”を持たない。
誰の子を真似ていようと、名前を知らない。
それだけが、見分ける唯一の手段」
咲子はこくりと頷いた。
だが、怖かった。
恐ろしい老婆の姿で、そして子供の声色を使ってやつは来るのだ。
その夜、咲子は眠らなかった。
心美の布団のそばに座り、隣の部屋でウトウトする
隼人の気配を感じながら、耳を澄ませた。
──カタン。
微かな物音。家のどこかで、何かが動いたような気配。
──ピンポーン。
来た、玄関のチャイムが鳴る。
咲子は立ち上がり、足音を忍ばせて廊下に向かった。
扉の前に、また誰かが立っている。
「ろうそくだせ〜、だせよ~、ださないとかっちゃくぞ〜……」
子供の歌声。けれど、何かがおかしい。
昨日とは違い、声が濁っている。
まるで、誰かの喉を無理やり通して発されているような、濁った声色。
咲子は声を震わせながら、呼びかけた。























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