「……あなたの名前を教えて」
扉の向こうの声が止まる。
と、その瞬間。
──「……ややこ、出せ」
咲子はガタガタ震えながら手に持った懐中電灯を構え、再び言った。
「名前を……言って!」
いきなり、ギィィーギギ、ギィィ!と玄関の扉を
鋭い爪でひっかくような音が響く。
途端にガチャガチャッ!ドアノブを激しく回す音。
咲子は悲鳴をあげかけた。背後で隼人が目を覚ましたのか
「お母さん……?」と声をかけてくる。
「隼人、部屋に戻りなさい!」
とっさに叫んだそのとき、郵便受けの間からしわくちゃの手が
のびて──
「……そこまで!」
鋭い声と共に、後方から白い影が飛び出した。
佳代だった。
寝間着姿のまま、数珠を手に、風のような勢いで
玄関に立ちはだかった。
「この家は通さないよ。……私が、代わりになる!」
その叫びと同時に、玄関の郵便受けから見えていた“その手”は、
蠢くようにスッとなくなり、奇声を発しながら、夜の闇に溶けた。
再び、静寂が戻った。
咲子は呆然と、その場に立ち尽くしていた。
________________________________________
「……どうなってるんですか、お義母さん……」
咲子は、肩で息をしながら問いかけた。
佳代は無言で、汗の浮いた額を拭い、数珠をきつく握りしめていた。
「お義母さんが代わりに……って、どういう意味なんですか?」
佳代はゆっくりと、咲子の方を向いた。
この話は怖かったですか?
怖いに投票する 14票
























※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。