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妖怪・風習・伝奇

八神のカイさんによる妖怪・風習・伝奇にまつわる怖い話の投稿です

ツヅラサキ
長編 2025/09/28 13:57 6,484view
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「……あなたの名前を教えて」

扉の向こうの声が止まる。
と、その瞬間。

──「……ややこ、出せ」

咲子はガタガタ震えながら手に持った懐中電灯を構え、再び言った。

「名前を……言って!」

いきなり、ギィィーギギ、ギィィ!と玄関の扉を
鋭い爪でひっかくような音が響く。
途端にガチャガチャッ!ドアノブを激しく回す音。

咲子は悲鳴をあげかけた。背後で隼人が目を覚ましたのか

「お母さん……?」と声をかけてくる。

「隼人、部屋に戻りなさい!」

とっさに叫んだそのとき、郵便受けの間からしわくちゃの手が
のびて──

「……そこまで!」

鋭い声と共に、後方から白い影が飛び出した。
佳代だった。
寝間着姿のまま、数珠を手に、風のような勢いで
玄関に立ちはだかった。

「この家は通さないよ。……私が、代わりになる!」

その叫びと同時に、玄関の郵便受けから見えていた“その手”は、
蠢くようにスッとなくなり、奇声を発しながら、夜の闇に溶けた。

再び、静寂が戻った。
咲子は呆然と、その場に立ち尽くしていた。
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「……どうなってるんですか、お義母さん……」

咲子は、肩で息をしながら問いかけた。
佳代は無言で、汗の浮いた額を拭い、数珠をきつく握りしめていた。

「お義母さんが代わりに……って、どういう意味なんですか?」

佳代はゆっくりと、咲子の方を向いた。

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