奇々怪々 お知らせ

妖怪・風習・伝奇

八神のカイさんによる妖怪・風習・伝奇にまつわる怖い話の投稿です

ツヅラサキ
長編 2025/09/28 13:57 6,479view
0

「ママ、僕も行ってきていい?」
「暗くなる前に帰ってくるのよ。心美が寝てるから、私は留守番」
「うん!行ってきまーす!」

隼人が家を飛び出していく。
咲子はその背を見送りながら、ふと心美の寝顔を見やる。
仏間のすぐ横の部屋に、蚊帳を吊って小さな布団が敷いてある。

その上に、心美は小さな手をぎゅっと握りながら
すやすやと眠っていた。
蝉の鳴き声に混じって、再び外から聞こえてくる子供たちの合唱。

「ろうそくだせ〜、ややこ出せ〜……」

咲子はふと眉をひそめた。
今、確かに「ややこ出せ」と聞こえた。
──それは佳代が言っていた、禁忌の節回し。

「まさか……」

笑い声と足音が遠ざかっていく。
咲子は自分の聞き間違いだと思い直し、静かに障子を閉めた。

________________________________________

その夜。隼人が帰宅し、お菓子で膨らんだリュックを
見せびらかすように見せていたころ、外はすっかり日が暮れていた。
佳代は仏間の蝋燭に火をともしながら言った。

「今夜からが本番よ。明日までは、戸締まりをしっかりね」

咲子は苦笑しながら頷いた。

「お義母さん、あれ本当に信じてるんですか?ツヅラサキ、
でしたっけ?」
「信じるとか信じないじゃないわ。そういう“もの”が、
昔から“いた”ということよ。ここではね」

その夜遅く。
家の中が寝静まったころ、玄関のチャイムが鳴った。

──ピンポーン。

咲子はうつらうつらとした意識の中で目を覚ました。
赤子の心美は隣ですやすやと寝ている。
チャイムはもう一度、鳴った。

3/9
コメント(0)

※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。

怖い話の人気キーワード

奇々怪々に投稿された怖い話の中から、特定のキーワードにまつわる怖い話をご覧いただけます。

気になるキーワードを探してお気に入りの怖い話を見つけてみてください。