佳代の顔がほんのわずか、陰ったように見えたのは
気のせいだろうか。
「でもね……」と、佳代は静かに言葉を続けた。
「“ややこ出せ”って歌に変わると、話は別なのよ」
「ややこ出せ……?」
咲子が聞き返すと、佳代はぽつりぽつりと語り始めた。
昔から、この町には“ツヅラサキ”という異形のものが
お盆に現れるという言い伝えがある。
──お盆の三日間、地獄の釜の蓋が開くとき
赤ん坊の匂いを嗅ぎつけて現れる。
──“ろうそくだせ”を装い、声を真似、子供のふりをして戸を叩く。
──だが、“名前を聞く”ことで、正体を見破ることができる。
──“あの者たち”は、決して名前を知らない。
「……そうやって、“あれ”から子供たちを守ってきたのよ」
咲子は苦笑した。「お義母さん、まるで怪談ですね」
佳代は微笑むが、その目に笑みはなかった。
お盆の初日──。
町内は朝から慌ただしく、どの家も仏壇の前に
精進料理やキュウリの馬を並べ、迎え火の準備をしていた。
咲子は、佳代に教えられた通り、門口で藁に火をつけ
家に帰ってくる霊たちを迎える。
「どうしてキュウリの馬とナスの牛なんですか?」
と咲子が尋ねると、佳代は手を止めて答えた。
「キュウリの馬で早く帰ってきて、ナスの牛で
ゆっくり帰ってもらうのよ」
町の子供たちの声が、あちらこちらから聞こえてくる。
「ろうそくだせ〜、だせよ~、ださないとかっちゃくぞ〜!」
その節回しはどこか愉快で、咲子は笑みをこぼした。
隼人も、町内の友達に誘われてはしゃいでいた。





















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