しかし、シバの言った通り、道は徐々に下り坂になり、やがて木々の隙間から麓の村や市の建物が見えてきた。
誰も追いかけてはこない。昨夜の異形の兄弟たちの姿は、霧の奥に消えていったかのようだった。
俺は息を整えながら、無事に山を下りることができた。
だが、あの夜の恐怖と、異形の兄弟たちの姿は、心の奥にこびりつき、日が経っても消えることはなかった。
結局、あの日以来、俺はその山へ登ることはなかった。
それでも、どうしても忘れることができず、山の麓にある市の図書館や郷土資料館を訪ね、あの兄弟のこと、山にまつわる伝承を調べ始めた。
古い文書の片隅に、確かに記されていた。
「一田」「二山」「三好」「四羽」という名の、山奥に住み着いた兄弟姉妹の一族。
血を濃く重ねすぎたその末裔は妖となり、村ごと滅ぼされたと、資料には淡々と書かれていた。
さらに調べを進め、現代の遺伝学に関する情報も目にした。
近親者の間での交配が繰り返されると、遺伝的に重複した異常が子どもに現れやすくなるという。
それによって、先天的な奇形や知能・身体機能の異常、免疫機能の低下などのリスクが高まるのだという。
頭の中で、あの夜の兄弟たちの姿と、資料や科学的知識が交錯する。
もしかすると、あの兄弟たちは幽霊でも妖怪でも怪物でもなく、単に血を濃く重ねすぎた子孫だったのかもしれない。
思わず背筋がぞくりとする。
だが、それでも、あの夜の異形の姿、理屈では説明しきれないのだった。
結局、あれから数年が経った。
趣味である登山は続けているが、あの兄弟たちのいる山には、二度と足を踏み入れていない。
だから、彼らが今どうなっているのかは分からない。
それでも、あの夜の記憶は鮮明に残り、時折、ふとした瞬間にシバの言葉が頭をよぎる。
「僕たち兄弟は、この山で、人間たちに見つからず、永遠に暮らすんだ。
だって僕たちは……人間じゃない。この世にいてはいけないものなんだよ」
家の中には、兄弟以外の人物、特に女性の姿はなかった。
もしかすると、あの兄弟たちは、この世における最後の一族なのかもしれない。
そして本当に、この世からいなくなる日が来るのかもしれない。
その考えが頭をよぎるたび、背筋にぞくりとした寒気が走る。
あの山の霧の中で、今も彼らは静かに、永遠に生き続けているのだろうか

























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