とにかくその頃の営業成績がいまいちだった私はルンルンでその家を後にしたのを覚えています。
帰社して契約が取れたことを連絡し、早速担当者に教材発送の手配を取ってもらいました。
みんなからお祝いの言葉ももらって、久しぶりに良い気分で帰宅できました。
それから数日後、事務所に一本の電話が掛かってきました。
応対した事務さんが私を呼びました。
「○○さんって方から電話です」
それは、数日前に契約してくれたあの家でした。
「お母さんからですか?」
「いえ、旦那さんみたいです」
私は直感的に(あ、キャンセルだな)と悟りました。
お母さん一人で契約を決めてしまい、後日お父さんからキャンセルの電話があるケースは珍しくなかったのです。現にまだクーリングオフ期間内でした。
一気に憂鬱な気分になりながら、私は受話器を取りました。
「・・はい、〇〇(私の名前)です」
「〇〇さんですね?うちのに教材を売りつけましたよね?」
電話口での旦那さんは、少し怒っているような口調でした。
売りつけたという言い方が少し気になりましたが、私は素直に「はい」と答えました。
「昨日、教材が届いてびっくりしたんですが、一体どういうつもりでこんなものを売りつけたんですか?」
「いえ、お母さんが、お子さんにちょうど教材を検討されてたと仰っていましたので・・」
その私の言葉を聞いた旦那さんは急に押し黙ってしまいました。
「・・・・・・・・」
「あの・・・・・・。もしもし・・・・?」
それからしばらく無言が続いた後、旦那さんは大きなため息をつくと、苦しげに言いました。
「・・・・・●●さん。うちにはね、子供なんていないんですよ・・」
私は咄嗟に言葉が出ませんでした。
「・・・・え?でも、小学四年生の息子さんがいらっしゃるって・・」
「いないんですよ。うちに子供は一人もいないんです」






















よかったです
怖い