かつて私は子供向け英語教材の訪問販売員として働いていたことがあります。
毎日100件近くの家々を片っ端から訪問して回り、子供がいれば教材の購買を促すような、今では完全にブラック企業と呼ばれる会社での仕事でした。
毎日それだけの家を訪れていると、本当に色んな家庭に遭遇します。
通算50,000件ほどの家を訪問したと思いますが、その中でも忘れられない数件の家があります。
これは、そのうちの一件の話です。
とある海沿いの分譲地を回っていた時の話です。
そこは田舎の分譲地にありがちな、区画整理して売り出したものの立地も条件も悪く、全然買い手がつかないまま放置された分譲地でした。
売れ残ったどこの区画も草ぼうぼうで荒れ放題。そんな中にぽつぽつと戸建ての住宅が建っているような所でした。
かなり荒涼感漂う一角でしたが、当時は契約が取れないとクビにされるような環境でしたので、とにかくぽつぽつと経っている家を片っ端から訪問していました。
どの家も築3~40年は経っていそうな、傷んだ住宅ばかりでした。
ほとんどの家が留守か、老夫婦の御宅で、この区画での営業を半ば諦めかけた時、その家と出会いました。
インターフォンに応じて玄関扉を開けて出てきたのは、40代半ばぐらいの、やつれた感じの女性でした。白髪混じりの長い髪は見た目にも分かるほどパサパサでしたし、目の下にはくっきりとクマがありました。
(ああ、外れかなぁ)
と思いつつも、一応基本の営業トークをしたところ、それまで生気を失っていたような女性の目がらんらんと光り出しました。
そして彼女は満面の笑みで言いました。
「ちょうどうちの子に、こういう教材やらせようかと思っていたところだったんですよ!」
これはごく稀にある、非常にラッキーなケースです。押し売りせずとも向こうから買ってくれるのですから、営業的には願ってもないこと。
聞けば小学4年生の男の子が一人いるのだということでとんとん拍子に話が進み、その場で40万円もの契約をいただけました。(子供向け教材ってこれぐらい高いのです)
お母さんもとても上機嫌になってくれて、
「本当にちょうど良かったです。教材が届くのを楽しみにしています」
とまで言ってくださりました。
「せっかくなんで、お子さんにも挨拶させてください」
と私が言うと、
「ごめんなさいね、今ちょっとお昼寝中で」
とお母さんが言いました。
(小4でお昼寝?)
と一瞬怪訝に思いましたが、まあ別に不自然ではないかと気にもしませんでした。
























よかったです
怖い