引っ越してきた部屋に、最初から一枚の絵が掛かってたんですよ。
曇り空の下、古びた二階建ての家が描かれてて、窓がひとつだけ、ちょっとだけ開いてる。
別に趣味でもないけど、外そうとしても裏がガッチリ釘打ちされてて、諦めてそのままにしてました。
ある晩、ベランダから空を見てて、ふと気づいたんです。
絵の中の家と、自分の部屋から見える家の配置が、やたら似てる。
いや、似てるどころか──ほぼ同じ。
でも、ひとつだけ違ったのは、絵の中の空だけが、いつ見ても曇ってること。
気になって、絵をじっと見てたら……窓の開き方が前より広がってるような気がして。
いや、気のせいかと思ったんですけど、それ以降、夜になると妙に“背中”が気になるんです。
リビングでテレビ見てると、誰かが後ろから見てるような、空気が張り詰める感じ。
何日かして、夜中に目が覚めて、ふと窓の外を見たら、道路の向こうに人影が立ってたんですよ。
動かない。音もしない。こっちを見てる感じはあるのに、顔は暗くてよく見えない。
で、怖くなって、部屋に戻って、絵を見たんです。
そしたら、その“窓”、もう完全に開いてて。
奥の暗がりに、何か──奥行きのある空間が描かれてる。
翌朝、絵をもう一度見て、ゾッとしました。
窓の奥、壁際に小さな観葉植物が置かれてて、隣に白いカーテン、グレーのソファ……
──うちの部屋と全く同じだった。
最初からそうだったのか、それとも途中で変わったのか、正直わかりません。
でも今も、その絵は壁に掛かったままで。
夜になるとたまに、視線を感じる。
絵を見返すと、あの窓の中、カーテンの隙間に“何か”が立ってるような気がして──
俺、あれは風景画なんかじゃなかったんじゃないかと思ってます。
たぶん、向こうがずっと、こっちを見てたんだろうなって。
























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