不動産関係の仕事をしている知人から聞いた話である。
数年前、都内のある築浅のマンションで、空室の内見を手配したことがあった。
一階の一〇三号室。
ワンルームにしては広く、設備も整っていたため、問い合わせも多かったという。
ある若い女性が見学に訪れた。
担当者が部屋を案内すると、彼女は部屋の奥に入った瞬間、足を止めた。
「……誰かいませんか?」
ぽつりとそう言ったきり、急に青ざめて退出してしまった。
担当者は戸惑いながらも後片付けをし、ふと視線をドアの裏側に向けた。
そこには、細い鉛筆書きで、びっしりと数字が並んでいた。
一から始まり、数千、数万に至るまで、縦一列に延々と書かれている。
──カウントアップだった。
翌週、別の男性客が同じ部屋を訪れた。
「この部屋、前に誰か住んでましたか」
「ええ……少し前まで、一人暮らしの男性が」
「いや、変なことを聞くようだけど、誰か“待ってる”感じがして……」
その部屋は数ヶ月後、別の客に契約された。
だが、ひと月経たずに退去。
理由は「夜、ドアの裏に誰かが数字を書いている気がする」とのことだった。
管理会社が改めて調べたところ、驚くべきことがわかった。
あの数字の列は、毎晩、一つずつ増えていた。
入居者が誰もいないはずの日にも、数だけが、増えていたのである。
その部屋のドア裏は、今では塗り直されている。
だが、夜中に帰ってくると、管理人室の前で、無言でドアを見つめる男が立っていることがあるらしい。
























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