小学5年生のときまで遡る。登校すると何やらクラスが騒がしい。クラスメイト3人が間もなくして担任に連れられ教室を出て行った。特に仲のいい連中ではなかったため、どうせ何かやらかしたのかと思っていたが、周りから聞こえてくる話からどうも何かやらかしたとかで連れていかれたわけではなさそうである。それとなく数人に何があったのか訊いてみたが、誰も詳細を知らない様子だった。
それから3人が不在のまま授業は進められ、ようやく戻ってきたのは給食の少し前だった。その間にパトカーが来ただの、職員室に警察官がいただのそんな騒ぎがクラスだけでなく学校中に広がっていた。小さな田舎町の小学校であれば、それも致し方ない。まるで盆と正月が一緒に来たような騒ぎだったことは憶えている。
給食の時間ということもあり、戻ってきた3人をまるでスキャンダルを起こした芸能人を取り囲むマスコミの如く質問責めするクラスメイトを後目に、俺は遠目からそれを静観していた。我ながら冷めた子供であったことは重々自覚しているが、当事者たちは口を噤みそれらに応えることはなかった。どうやら学校に警察が来ていたのは事実らしい。とすれば彼らが何かしらの事件・事故を目撃したとか遭遇したのかと子供心ながらに想像がついたし、恐らく警察官や教師たちから口止めされていたことも想像だに難くなかった。それからしばらくはそんな騒ぎが続いていたものの、3人がそれらについて語ることはなかったため、いつしか静かに終息していた。
それから1年程して、俺はその3人のうちの1人と仲良くなった。何がきっかけかまでは憶えていないが、休み時間のサッカーとか些細な事から仲良くなったと思う。それから互いの家を行き来するようになり、次第にお互いの家に泊まるような仲になっていった。
それからさらに時間は進み中学校3年のときだ。その仲良くなった友人をIとするが、そいつの家に泊まりで遊びにいったときに、残り2人のOとSがひょっこり遊びに来た。OとSとは、話はするがそれほど仲がいいわけではなかったが、そのときばかりはバカ話などで大盛り上がりした。中学の話から始まり、遡っては小学校時代の話になり、そんなときふとIが例の事件のことをポツリを呟いた。
「あのときは本当に参ったよなぁ」
このときは中学生ながら酒を持ち寄っていたこともあり、酔った勢いでついIが口を滑らせたのだろう。Iの一言を皮切りにOとSもその話に入ってきた。唯一事情を知らない俺は、それとなく何があったか訊いてみることにした。Iの「もう時効だよな」という一言から、例の一件について詳細に説明を始めた。
当時小学5年生だった3人は、いつものように放課後学校で遊んだあと、17時近くなって帰路についた。他愛のない話をしながら畑道を歩いていると、3人の耳に何かが聞こえてくる。辺りを見回すと、近くにあった小さな掘っ立て小屋から人の声がすることに気づいた。
その小屋から男の声がするではないか。何か言葉を発しているが良く聞き取れない。恐る恐る近づいて様子を伺うと入口には南京錠が掛けられていた。もしかすると声の主は、小屋から出ることができないのだろうか。とすれば助けを求めているのかもしれないと声をかけようかと思ったが、不審者の類であったらと躊躇した。ひとまず様子を伺うことにした三人は、少し離れながら小屋をぐるっと一周した。しかし入り口以外に開ける扉などは見当たらない。悪いことをして閉じ込められているのか、それとも誰かに匿われているのか、様々な考えが巡るなか三人が出した答えは“とりあえず中の人間を確かめてみよう”ということに落ち着いた。
もう一度注意深く小屋の周囲を確認するが、やはり正面の扉以外に入口は見当たらない。と、入口の扉の下部分に僅かな隙間が見えた。Sが地面に突っ伏して隙間から中を覗くと男の足が見えた。男は素足で何も履いておらず、薄暗い小屋のなかでもその足は泥で汚れているようであったという。やはり中には誰かがいる。しかしなぜこの小屋のなかにいるかはさっぱり皆目見当もつかない。
「おーい、誰かいるのか」
三人の気配を察したのか、ふいに男がこちらに呼びかけてきた。咄嗟のことに3人は息を飲んだ。
「誰かいるんだろ?ここから出してくれないか」
男が助けを求めている。返答に困った三人は顔を見合わせた。
「あのー鍵がかかっていて開かないんです」
Oが口火を切って男に返答する。すると
「頼む。ここは苦しくてな。どうにかして出してくれないか」
男の声は、確かに息苦しそうにやや掠れている。具合が悪いのだろうか、そう思ったSは「大丈夫ですか?」と声を掛けながら、再度入口下部の隙間から中を覗いた。すると男の足が見当たらない。おかしい・・・二坪程度の小さな小屋である。中にはいくつかの農機具が見えるだけで男の姿が見えない。どこに消えたものかと男の姿を探していると、隙間の向こうからギョロっとした目が現れた。
逆にこちらを覗いてきた男と視線が交差したSは、まるで飛び上がるようにその場から離れた。
「頼む。頼むから出してくれ」
その声と共に隙間から土に塗れた汚れた手がにゅっと伸びてくる。助けを求めるその手を取ることなく、3人は一目散にその場から逃げ出すと、近くで農作業をしていた人に助けを求めた。幸いというべきか、その人はその小屋がある畑の持ち主だった。運よく小屋の鍵を持っていたこともあり、その人と共に小屋に3人は戻った。持ち主は「最近は使っていない小屋なんだが、どうやって入ったんだろう?」と首を傾げながら、入り口から中に声を掛けた。
「大丈夫か?今開けるぞ」
呼びかけに中から返答はない。持ち主が南京錠を外し入り口を開く。その刹那、その場にいた全員が悲鳴を上げた。
中には腐乱した首つり死体が一体、ぶら下がっていたのだ。
「それで、それをモロに見ちゃってさ・・・」
当時を思い出したのか、今にも吐きそうな気持ち悪い表情を浮かべIが当時を思い出しながら、そのときの状況を語った。
「確かに声がしたんだろ?」
「俺ら会話もしたしな」
「でもさ、間違いなく死んでたんだろ?」
「あぁ。腐った死体がぶらんぶらん・・・おえっ、あんときの臭い思い出しちゃった」
Oは嗚咽しながら生々しい死体の状況を説明し始めた。
























この話に出てくるoの母です
たたり?コワー